ビジネスプロセスを改善する――コストは結果的にしか削減されないGartner Column(2/2 ページ)

» 2012年02月27日 08時03分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]
前のページへ 1|2       

ビジネスプロセスの範囲が決め手

 顧客と自社は、当然のことながら別々の組織である。組織と組織の間には、必ず壁が発生する。しかし、経営、ビジネスのトップは、この壁は相当に低いか全く存在しないことを願っている。ところが、たいへん残念なことに、現実には明らかに壁が存在する。図を見てもらいたいのだが、これは、製造業などでよく見掛けるビジネスプロセスの例である。

図「ビジネスプロセスの範囲は何処まで? 」出典:ガートナー

 営業と設計の間の組織の壁を取り払うために、両組織のプロセスを改善したとする。そうすると、この両組織の間は、うまくいくし、次工程である調達部門との関係もうまくいくはずである。なぜならば、改善の範囲を営業と設計に限定したので、この両部門の戦略的な目標は、そのプロセスの外側にある調達部門との関係に焦点が絞られるからである。

 しかし、営業・設計の両部門からは、更に後工程になっている製造や物流は見えにくいため、これらの工程とはアンバランスを発生させる可能性がある。ましてや、最終的に顧客との接点に対しては、営業、設計のプロセスを見直すだけでは、変化が起きないか悪化させる可能性が高い。

 戦略策定の際に、経営資源の配分を決めておきたいと述べたが、この経営資源の定義、配分が、ビジネスプロセス改善にとってのキーポイントになる。ビジネス、プロセスに参加している各組織のどこからどこまでを対象にするかによって、改善結果が大きく異なるのである。

 エンドツーエンドのビジネスプロセスでの見直しができない場合、顧客に対しての価値訴求は成功しない。実は、エンドツーエンドをどこまで見るかが問題になる場合がある。とあるエンドユーザ向けに営業部門を持たない製造業の企業があったとしよう。この企業は、自社とは資本関係を持たない代理店を全国に配置し、そこを経由して自社製品を販売していた。

 エンドユーザに価値を創出するためのビジネスプロセスは、製造企業の代理店向け営業部門までだろうか、それとも代理店までだろうか。このように説明すれば、代理店までがエンドツーエンドのビジネスプロセスだと回答できるだろう。しかし、現実の世界では、資本関係を持たない代理店は、製造会社からみれば、赤の他人だし、「(製造企業サイドが頼み込んで)売ってもらってている」という関係かもしれない。そんな代理店までを巻き込んでのプロセス改善は、並大抵ではない。しかし、エンドユーザに価値を創出するならば、代理店内部のビジネスプロセスまでを巻き込んで改善しなければならないのである。

コスト削減は、いかに?

 ここまで、話してようやくコスト削減に話を戻しましよう。ビジネスプロセスを改善してコスト削減を成功させるには、戦略を正しく策定させることにより「集中と選択」に成功した場合、結果的にコストをかける領域を絞れたことによるコスト削減効果が一つ。それから、ビジネスプロセスの範囲を適切に設定できたことによるエンドツーエンド全体でのコストバランス効果なのである。

 分かりやすく前出の製造業の例で言うと、代理店と企業側とのインタフェースが、電話、FAX、電子メール、Webによる注文と4種類あることと、Web以外のインタフェースは受け付けない(代理店システム及び情報の発生源入力)場合とを考えてみよう。前者は、ビジネスプロセスを自社内だけと定義した。後者は、代理店の内部も自社のビジネスプロセスとして定義した場合である。

 前者は、電話などという手段も残るため、注文ミスが発生するかもしれない。電子メールやFAXは、実際に注文内容を確認するまでにタイムロスが生じるだろうし、そこからの起票というのであれば更に入力ミスの心配も残る。コストだけではなく、コストに直結するリスクも存在するのである。後者は、このような心配は無いし、場合によっては、注文を受け付ける要員を廃止することもできるだろう。コストが削減できる。

 さて、最後にお知らせです。3月2日「ガートナー エンタープライズ・アプリケーション サミット 2012」を、港区白金台の八芳園で開催します。「ビジネスプロセスを改善する」という演題にて、ここで紹介した内容も含めて講演します。多くの読者の皆さまと、実際にお目にかかれることを期待しています。

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。それ以前は企業のシステム企画部門で情報システム戦略の企画立案、予算策定、プロジェクト・マネジメントを担当。大規模なシステム投資に端を発する業務改革プロジェクトにマネジメントの一員として参画した。ガートナーでは、CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム (EXP)」の日本の責任者を務める。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆