ビジネスチャンスはどこからか降ってくるものではない。しかし顔を突き合わせていくら話し合いをしても、なかなかいいアイデアができてはこないというのも実情。「斬新なアイデア」をと求めるだけでなく、こんなゲームを部下に提案するのも一興だ。
「このビジネスが成功したのは、いち早くチャンスを発見することができたからだ」という話はよく聞く。規模は別にしても、ビジネスを新たに展開するためには、あるいは進展させるためには、絶えず新しいチャンスを発見していかなければならない。しかし、それがなかなか一筋縄ではいかないことは周知の通りだ。そんな中で今、注目されているのが東京大学工学系研究科システム創成学専攻准教授の大澤幸生氏が2000年4月頃に創始した「チャンス発見学」である。チャンスを発見するために必要なスキルを育成するゲームも含めて、人を惹き付ける魅力に富んだ「チャンス発見学」とは、どういうものかを見てみよう。
チャンスは、いくら待っていても、向こうからやって来るものではない。自分の方から積極的に捕まえに行って、はじめて手に入るものなのだ――。
そんな話は誰でも耳にタコができるほど聞かされているし、分かり過ぎるほどよく分かっているはずだ。自分なりにちゃんと努力もしている。それでも、なかなか思うように新たな発見には結びつかないのが現状なのだ。そんな嘆きやら、憤りやらの声があちこちから聞こえてきそうだ。
実に悩ましい限りだが、そもそもチャンスとは何だろうか。大澤氏は、「まれだが、意思決定にとって重要な事象または状況」と定義している。そして、そうした事象や状況に気付き、理解し、行動することがチャンス発見だと言う。もう少しビジネス寄りの言い方をすると、従来はあまり関連付けて考えられることがなかったさまざまな事象の間に新たに関連性を見付け出し、そこに新しいビジネスを創造することである、ということになる。
もちろん、そのためにはツールが必要である。中でも最も重要な役割を果たすのが、データを解析して可視化するITツールであり、大澤氏は「キーグラフ」を独自に開発し、活用している。これは、もともとは文章の中から低頻度でも重要なキーワードを抽出する手法として提案されたものだが、「まれな事象でも重要なら出してくるデータマイニング手法」としても使えるので、マーケットデータや地震データなどにも広く適用されている。
キーグラフは、物事同士や商品同士の関係性を可視化する。つまり、関連する物事や商品をグループ(島)ごとにまとめて見せてくれるのである。それだけなら、いわゆるクラスタリングと違いがないが、キーグラフにはクラスタリングでは見えてこないものが表示されるのだ。
島は確かに一見、それぞれが孤立しているように見える。しかし、現実にはそんなことはあり得ない。何らかの関連性があるはずであり、島と島との間には、橋の役割を果たすものがきっと存在しているはずだ。キーグラフには、その橋となるポイントが表示されるのである。
しかし、それだけではチャンス発見とはならない。「そこから、グラフに現れているものとは違う関係性に気付くことが何よりも大事なのです」と大澤氏は言う。つまり、キーグラフを1つのツールにして、今までは隠れていて見えなかった関連性を新たに見つけ出すということである。それこそが、チャンス発見の極意とも言うべきものなのである。
キーグラフは、言うまでもなくITツールだが、それはあくまでも気付きを与えるためのものである。したがって、大澤氏はキーグラフについて、こう述べている。
「コンピュータでデータを解析することも、それはそれでもちろん大事なことですが、その結果については正確であればいいというものではありません。現場のプロが見て、ヒラメキを得るようなものでなければならないのです。そのために、私どものキーグラフはあえて難しいインタフェースで見せるようにしています。そうした方が、ビジネスマン、特に優秀なビジネスマンは、頭を使い、苦労して理解し、壁を突き抜けることによって、新しい何かに気付いてくれるからです」
キーグラフから何らかの気付きを得るためには、感性を働かさなければならないということだ。「見たいもの、好きなものをまず見て、それと違うものとの関係に気付いていくわけですが、そこには肉感的と言うか、本能的と言うか、ある種の動物的カンみたいなものが働くのです」と大澤氏は解説する。
と同時に、キーグラフから何らかの気付きを得るためには、身に付けておかなければならない最低限のスキルがあるとも言う。1つは、日常的なビジネスの現場での経験である。現場にいれば、顧客の話や動きから、その背景にあるものを考察したり、さまざまなつながりを理解したりするスキルが身に付いているはずだというわけである。
しかし、「ただ経験があるというだけでは駄目です」と大澤氏は言う。「普通なら関連があるとは考えられないようなものとものとの間に関連を見出そうとする能力、何らかの関連がそこにはあるに違いないと思える能力が必要です」
そうしたスキルがなければ、キーグラフがあったとしても、そこから新しい気付きを得ることは難しいというわけである。ならば、そのスキルをまず鍛える必要がある。というわけで、大澤氏はシステム創生の教員数名とともに、ビジネスマンのための2つのゲームを考案した。1つがイノベーションゲームで、もう1つがアナロジーゲームである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授