従業員のモチベーション維持や顧客データベースの統合など、企業合併に際して生じる課題は大きい。ある信用組合のCIOは、解雇を一切行わず、逆に充実した社員教育を施すことで大規模なシステム統合を成功させたという。
前編「信用組合の合併を成功に導いたシステム統合」はこちらから。
ジェフ・コネリー氏がインユニゾンのCIO(最高情報責任者)に就任したとき、エンビジョンのIT部門には28名のスタッフ、ファーストカルガリーのIT部門には14名のスタッフが勤務していた。だが、コネリー氏は人数を削減するよりも、むしろ、採用を続行した。「コスト削減の簡単な方法はスタッフを削ることだ。だが、われわれはIT部門の価値と能力を高めたかった。どちらのIT部門もスタッフは不足していた。われわれが必要としていたのは、業務を合理化することではなく、スタッフを増やすことだった」と同氏。
コネリー氏は飛行機で1時間離れた場所にある2つのデータセンターを受け継ぐことになったわけだが、これはインユニゾンにとって、障害回復/事業継続性の点では優れたプラットフォームとなった。本当の難題は、IT部門を「システムを管理することだけを考えている集団」から、「より先を見越して行動できるビジネスアナリストとセキュリティ専門家の集団」へと変えることだった。何しろ、IT部門に期待される役割はインユニゾンの成長を実現することだけでなく、ほかの信用組合にもサービスを展開できるようにすることだからだ。
コネリー氏にとって、スタッフの継続性も大きな懸念の1つだった。同氏はこの部門統合に不安を感じているスタッフらに対し、この統合がより大きなチャンスをもたらすはずであるという点を納得してもらえるよう、説明を尽くした。同氏は多くのスタッフと個別に話し合いの場を設け、すべてのスタッフに活躍の場が用意されていること、そして、これまでよりもさらにやりがいのある仕事が待っているということを説明した。そして実際、この部門統合に伴うレイオフは一切行わなわれず、驚くべきことに、職務の重複も一切生じなかった(ただし、自ら希望してほかの部署に移ったスタッフと退職したスタッフが合わせて5名いる)。
「わたしが過去のさまざまな合併の経験から学んだのは、まずスタッフの疑問に答えなければならないということだ。成功したいのであれば、スタッフに“自分にはその成功に貢献するための役割が与えられている”と感じてもらう必要がある。彼らには、会社の未来を築く上で自分が必要とされているということ、そして自分に課せられた役割が重要なものであるということを理解してもらう必要がある」とコネリー氏は言う。
統合後の新部門に共通の文化を構築すべく、コネリー氏はオリジナルのゴルフシャツのほか、インユニゾンのロゴ入りのコーヒーカップとペンをスタッフに配布した。また同氏は、社内にこのニュースを広めるための電子ニュースレターも作成した。そしてIT部門の上層部は統合の成果を測定するための業績評価指標を策定し、周囲の賛同を取り付けるべく、そのプロセスにはビジネス部門の幹部らにも参加してもらった。CEO(最高経営責任者)とCIOはスタッフをカジュアルランチに誘い、自分たちのビジョンを説明した。また、両信用組合のIT管理者らはプランニングに集中するために2日間の合宿を行ったりもした。
それでも、いくつか難題はあった。両組合のIT部門では、本当のITスキルを備え、正式なトレーニングを受けたITプロフェショナルは全体の3分の1程度に過ぎなかったのだ。残りのスタッフは、ITプロジェクトに取り組む中でITを学んできた人たちだった。「スタッフのうち70%は、信用組合の各種のプロジェクトで経験を積んできた人たちだった。どちらの組合もメンテナンスとサポート中心の組織であって、専門知識のレベルはあまり高くなかった。われわれはサービス企業になれるほど十分なスキルを備えていない」とコネリー氏。
この問題を解消すべく、コネリー氏はパートタイムの契約者にフルタイムで働くよう持ち掛け、事業の成長にとって非常に重要な分野である「ビジネス分析」と「セキュリティ」の担当スタッフを強化した。また同氏は人材あっせん会社を利用し、人員補充のために、よその地方からの転居費用まで負担した。さらに同氏は昔からのスタッフが新しいスキルを学べるよう、トレーニングの予算を増強した。そして、勤務評定には「専門的能力の開発」という項目が追加された。「わたしは社内の教育を重視している。われわれは経営管理や技術に関する教育に多く時間を費やしている。CEOから末端のスタッフまで、仕事ぶりを評価する際には教育面の要素が考慮される」とコネリー氏は語っている。
統合後のIT部門では現在、77名のスタッフが2つのロケーションに分かれて働いており、スタッフはパートナーサービス部門かオペレーション部門のいずれかに配属されている。パートナーサービス部門には、顧客関係マネジャー、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネジャー、製品マネジャーなど、20名が所属、オペレーション部門には、セキュリティやネットワーク、電気通信の専門家のほか、技術アナリスト、技術アーキテクト、データベース管理者、システムアナリスト、ヘルプデスクスタッフなど、50名以上が所属している。
そして、全スタッフのうち半数はトレーニングを受けたプロフェッショナルだ。
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明治学院大学 経済学部准教授