情報爆発の時代にどう生きていくか新世紀情報社会の春秋(2/2 ページ)

» 2008年10月03日 07時45分 公開
[成川泰教(NEC総研),ITmedia]
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人々を不安にする情報社会

 最後は「日常生活での悩みや不安」に関するものである。このデータが示すのは極めて象徴的だ。調査開始以来、日常生活で悩みや不安を感じている人の割合は、そうでない人をわずかに上回る水準であり、両者は年々接近しつつあった。バブル経済末期の1991年になって初めて、悩みや不安を感じていない人の割合が少しだけ上回ったのである。

 ところがその直後から再び比率は逆転し、いわゆる「失われた10年」を通じて毎年一定のペースで差は広がった。そのトレンドは現在も継続している。2008年6月の調査では、実に国民の7割が何らかの悩みや不安を感じていると答えた。異常事態といってもいい。

 ここでいう悩みや不安とは、他愛もないことやぜいたくな悩みという性格のものではない。今や一国の首相が自身の悩みにより職を辞す時代である。それに耐える人間の強さ、弱さとは別に、爆発する情報が悩みを大きくしている側面も無視できない。

 筆者は数年前に椎間板ヘルニアを患った。病気が深刻化する一方で治療がなかなか進展せず、勤怠も不規則になり、自分の将来について大きな悩みや不安を抱いた。インターネットで治療方法などの情報を検索したのだが、結果的に問題解決どころか、自分にとって都合の悪い情報ばかりが目につき、不安が増大してしまった。

 ヘルニアの治療で知り合ったある医師が口にした言葉が印象的だった。「われわれも効率よく診察を進めようと努力している。注射などの処置や検査にかかる時間はだいたい分かる。問題はその前にある問診だ。最近の患者は実にいろいろなことを知っている。こちらが必要なやり取りを終えた後に、突然、病気に関するWebページのコピーを取り出し質問を始める。あれは恐怖の瞬間だ」

情報の増大が人間の幸福につながるわけではない

 「情報爆発」はインターネット社会の特質を表すものとして定着している。現在、世の中に流通する情報量はいったいどれほどあるのか。総務省の情報流通量に関する推計「情報流通センサス」は、3年前の調査発表を最後に途絶えたままだが、情報発信の増加やネットワーク上へのデータ蓄積が進み、利用可能な情報が今後も増えるのは間違いない。

 情報の増大は情報社会の発展につながるが、それが人間や社会の幸福に結びつくというのは性善説的な考え方だろう。だからといって情報の善し悪しを選別することは本質的な問題ではない。

 「幸せな人生を送るためにはある程度のお金が必要」という考え方に同意する人はかなり多い。一方で「お金があまりなくても十分に幸せだ」と感じている人が少なくないのも事実だ。両者が併存できることもわれわれは知っている。同じことは情報についてもいえるはずだ。

 貨幣も情報も人間の営みとして生じた価値である。量的な拡大は豊かさを演出するが、それがある基準を超えたとき、ことの本質は量から質へと転換し始める。米Lehman Brothersの破たんは経済界における一例だろう。情報の世界でも同様のことが起こり始めており、人々が日常で感じる基本的な意識の一端からもそのことが読み取れる。しかしそれは「量から質へ」という単純な構図でとらえることはできない。

 新世紀の情報社会はまた一つの大きな曲がり角を迎えつつあるようだ。


成川泰教(なりかわ やすのり)

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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