12月3日、SAP Tech World 2008で米国の大手石油会社、Valeroが、SOAの取り組みを紹介した。「再利用可能なエンタープライズサービスこそが成功のカギだ」と同社は話す。
「われわれはGoogleよりも急成長している」── こう話すのは、Valero Energyのナヤキ・ナヤル副社長だ。
12月3日、都内で開催された「SAP Tech World 2008」で米国の大手石油会社、Valeroが、SOA(サービス指向アーキテクチャー)の取り組みを紹介した。
テキサス州サンアントニオに本社を置くValeroは、フォーチュン誌の米国企業番付、フォーチュン500でも堂々の16位にランクインする独立系石油精製販売会社。10年前には50億ドルだった売り上げは、今年、1300億ドル以上に達するとみられている。1000人に過ぎなかった社員も2万2000人と桁違いに増えた。
ほかの成功企業と同様、積極的な企業買収が成長を加速したが、情報システムが追いつかなかった。基幹業務はSAP ERPへの中央集中化に努めたが、それでも異なるシステムが乱立、その連携に忙殺された。情報システム部門は会社の急成長に追従するのが精一杯だった。
ガートナーによれば、ポイント・ツー・ポイントのシステム間連携は、それを維持するだけで1対当たり年間5万ドルから10万ドルを要するという。システムが増えると、つなぎの本数も膨れ上がる。
「まさにカオス。連携コストの削減、データ重複の回避、迅速なアプリケーション構築、技術やスキルセットの標準化など、課題は山積していた」とナヤル副社長。
Valeroは2004年、SOA構想に着手し、既存システムの機能をサービス化し、それらを再利用することで混沌から抜け出そうと決めた。
「再利用可能なエンタープライズサービスこそが成功のカギだ」と彼女は話す。
Valeroのアーキテクチャーは、上位から順に、次のようなレイヤ構造だ。
最も下に位置するビジネスアプリケーションは、SAP ERPをはじめとするさまざまな既存アプリケーションだ。これを標準的なWebサービスのインタフェースやSAP固有のBAPIなどで呼び出す、やや粒度の細かいアプリケーションサービスがあり、その上位には粒度の大まかなエンタープライズサービスがある。そして、最も上にはSAP Portalでそれらを組み合わせて見せるコンポジットアプリケーションが位置づけられる。
ナヤル副社長は、同社でエンタープライズアーキテクチャーとテクニカルサービスを担当しており、同社情報システムの共通アプリケーション基盤としてSAP NetWeaverを採用した。そうすることで、SAPアプリケーションだけでなく、非SAPアプリケーションもSOAの世界に取り込み、エンタープライズサービスのデザインと再利用促進を図ることができたという。
同社は早くから機能のWebサービス化に取り組んでいたが、結局のところ付け焼き刃のサービス化では再利用は難しかったという。「NetWeaverで再利用可能なエンタープライズサービスの充実を図り、代わりに再利用されないWebサービスは廃していった」とナヤル氏。
再利用されるサービスは平均でおよそ30%といわれている中、同社のサービスの半数は、複数のアプリケーションから利用されており、再利用性が高いと評価されている。Valeroでは、こうした再利用性を継続的に測定しており、デザインの良しあしの指標としているという。
「われわれは、スピードよりも再利用性が大切だと考えている。アーキテクチャー、ガバナンス、デザインが重要なのだ。無造作に作られたWebサービスでは、SOAアプローチのシステム構築は難しい」(ナヤル氏)
SOAの基盤づくりに取り組んだValeroは、レポートや簡単なアプリケーションであればエンドユーザー自身が作成できる環境づくりや、この日、国内でも発表された「SAP NetWeaver BPM」によってエンドユーザー自身がビジネスプロセスを組み替えられる環境づくりも視野に入れている。
「大統領選でもソーシャルネットワーキングが大きな影響力を発揮した。セルフサービス化を進め、社員の力を最大限に引き出し、“エンタープライズ2.0”の実現を後押ししたい」とナヤル氏は話した。
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