ソニーは2008年末、大規模な人員削減を発表した。コスト削減の圧力が強い一方で、情報システムを長期的な成長エンジンとして位置づける。ビジネス部門に積極的に提案をするようなIS部門を目指すと話すのは長谷島眞時CIOだ。
2008年12月、ソニーは正社員を含め世界で1万6000人以上を削減すると発表した。日本を代表する企業の窮状は、世界経済の悪化を裏付けた。厳しい道のりを行く中、同社は情報システムを長期的な成長エンジンとして位置づける。2009年以降、ソニーの情報システム部門(IS部門)は、ビジネス側に新商品を積極的に提案するような体制に変わっていくという。従来型の受け身なIS部門の姿はない。同社業務執行役員SVPで、CIO(最高情報責任者)を務める長谷島眞時氏に話を聞いた。
ITmedia 2008年は米国発の金融危機によって終盤になって急速に世界経済が悪化しました。それを含め、ソニーのCIOとしてどんな年でしたか。
長谷島 景気の悪化を受けて、IS部門も経費の見直しを迫られます。一方で、08年はIS部門の構造改革が次のフェーズに入る年でもありました。エンタープライズアーキテクチャなどの手法を用いて将来像を描き、海外の開発拠点を含めたリソースの再配置を本格化させました。
IS部門は企業にとって極めて大切な存在です。生産管理や物流を含めたSCM(サプライチェーンマネジメント)システムは、バッチではなくリアルタイムで稼働しており、停止すれば即座に商品の流れが止まります。いまや電子メールシステムの停止でも業務全体の流れが滞ってしまいます。情報システムがビジネスの行方を左右する時代になってきています。そのため、今後はIS部門の技術者がビジネス側に積極的に提案するような体制を構築します。
ビジネスを見ると、情報システムの重要性は増すばかりです。例えば、プレイステーションをはじめとしたソニーの多くの商品が、ネットワークにつながるようになっています。購入履歴をもとに顧客とソニーがつながることで、ハードウェアからネットワークを経由してサービスを利用してもらえます。ネットワークウォークマンも一例です。これらのシステムはソニーのIS部門が直接担当しているわけではありませんが、今後のソニーのビジネスにおける情報システムの重要性を端的に示しています。
ITmedia 自ずとIS部門の役割も変化するということですね。
長谷島 今後のIS部門の最も大きな役割は、業務プロセスに横ぐしを入れることです。業務部門はそれぞれが役割や目標を持っています。各業務部門の生産性などを最適化したからといって、全体が最適化するわけではありません。例えばある部門がA、B、Cという製品を1万台ずつ製造する場合、生産する側から見て最もコストを低く抑えられるのはA、B、Cの順につくるやり方です。しかし、考えれば分かるように、消費者がA、B、Cの順に買おうとしているわけではありません。したがって、市場が求めるタイミングに合わせて、A、B、Cを生産しなくてはいけないのです。売れるものは市場が決めるのです。競合他社が製品Bと同等製品を投入するなら、その前に手を打たなくてはなりません。「最適化する」という意味は、会社の複数の部門が連携することであり、IS部門はその役割を買って出るべきなのです。
情報システムリソースのコモディティ化も、IS部門の役割を変える要因です。インフラ管理など従来大きなリソースを費やしてきた分野を、インドなどのオフショアベンダーに委託し、自社のIS部門はビジネスに直結する重要な仕事だけをするという考え方に変わろうとしています。これはビジネスとシステムの関係が、従来とは逆になる兆候でもあります。これまでIS部門はビジネス側が求めてきた要求をITで実現する存在でした。今後は、「システムで実現できることは何か」をまずIT部門が提案した上で、事業部門が業務プロセスを考え、最後に商品化などビジネスのあり方を定めるという流れになるかもしれません。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授