「教科書なきCIOの世界」――カシオ計算機・矢澤氏CIOインタビュー(1/3 ページ)

1997年に情報システム部門に異動してきて以来、メインフレームからオープンシステムへの移行、グローバルでのERP導入、サプライチェーンの整備などさまざまな企業改革の担い手となったカシオ計算機の矢澤氏。「ITによって経営戦略に貢献することがわたしの役目」とCIOとしての使命を強調する。

» 2009年01月15日 08時30分 公開
[伏見学,ITmedia]

 「100年に1度」とも言われる大不況が世界経済を揺るがしている。金融危機の発端となった米国では、経営不振に陥った自動車大手3社(ビッグスリー)が政府に公的資金による救済を求めたり、保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が主力事業の売却に奔走したりするなど、数年前までは考えられなかった未曾有の事態が繰り広げられている。

 日本も他人事ではない。トヨタ自動車は昨年12月22日、2009年3月期の連結営業利益を大幅に下方修正し、1500億円の赤字になると発表した。いわゆる「トヨタショック」は実体経済のみならず精神的にも大きな打撃を日本企業に与えたといえよう。

 このたび取材したカシオ計算機も一連の経済不況に苦しんでいる。原材料価格の高騰や景気減速による世界全体での需要低迷、グローバルでの競争激化などにより同社を取り巻くビジネス環境は厳しさを増している。2008年度第2四半期の連結売上高は2723億円と、前年同期比で219億円マイナスとなった。

 しかし裏を返せば、今こそ経営陣はかぶとの緒を締め、コスト削減や業務の効率化に向けた事業プロセスの見直しを図る好機といえる。そうした中で企業の基盤となる情報システムに課せられることは大きい。同社の執行役員で情報システム部門を統括する矢澤篤志業務開発部長は、日本でも有数のCIO(最高情報責任者)として知られる。ビジネス環境が劇的に移り変わる今、企業が生き抜くためにCIOが取り組むべきことは何か。矢澤氏に聞いた。


グローバル全体でシステム基盤を整備

――情報システム部門にかかわるようになった経緯を教えてください。

<strong>矢澤篤志氏(やざわ あつし)氏</strong> 1958年生まれ。中央大学商学部卒業後、1981年カシオ計算機入社。海外営業、物流企画などの部門を経て、1997年より業務開発部(情報システム部門)に配属。2001年部門長、2006年6月執行役員就任 矢澤篤志氏(やざわ あつし)氏 1958年生まれ。中央大学商学部卒業後、1981年カシオ計算機入社。海外営業、物流企画などの部門を経て、1997年より業務開発部(情報システム部門)に配属。2001年部門長、2006年6月執行役員就任

矢澤 1997年に生産物流部門から異動してきました。ちょうどレガシーシステムであるメインフレームを撤去してオープン系システムへの移行を検討していた時期で、グローバルの全拠点に統合基幹業務システム(ERP)とサプライチェーンマネジメント(SCM)のシステムを一斉に導入するためのプロジェクトに携わりました。「2000年問題」への対応もあり、配属されてからプロジェクト完了まで3年しかありませんでした。ERPについては、2000年までに海外拠点の基盤は新システムに切り替えることができました。

 国内の販売に関しては、既に日次で売り上げなどが管理できていたので、まずはグローバル全体で日次データの整合性がとれるようにすることを優先しました。国内拠点については、2003年に販売戦略が変化したことに伴いプロジェクトが立ち上がりました。2006年から徐々に切り替え始めて、最終的に2007年5月に完了しました。

 このようにERPやSCMなどのシステム基盤を統合したことで、現在はグローバル標準となり、本社でグローバル全体のITガバナンスを効かせています。

――ERPパッケージを導入した理由は何ですか。

矢澤 従来は拠点や事業部門ごとに情報システムを構築していたため、製造と販売のシステムはばらばらで、コード体系やデータ項目もまるで異なっていました。このままだと、たとえサプライチェーンを整備しようとシステム統合しても経営メリットは何も生まれません。そこで、基盤を大きく変えて、それまでの部分最適から全体最適に再構築する必要がありました。そのための基盤としてERPを選びました。

 ERPを導入したことで、モノの流れとカネの流れが完全に同期されて、会計にも大きく影響を及ぼしました。

――SCMへの取り組みについてはどうですか。

矢澤 サプライチェーンの効率化と連結会計の見直しを2001年ごろから取り掛かり、2004年には完了しました。連結会計は経営トップの意向が強く、月次決算は当たり前だという考えがありました。幸いにもその時期にはある程度ERPの基盤がそろっており、導入する上での素地はありました。ただし当時は、経理部門と経営者の考え方に相違がありました。経営側は意思決定できるレベルの財務および管理会計の基礎情報をいち早く見たいと思っていましたが、経理側は必ずしもそれが優先課題だとは思っていませんでした。

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