2008年に世界を襲った未曾有の経済危機により、まさに企業は暗闇の真っ只中にいる。こうした状況に甘んじて時が過ぎるのを耐え忍ぶのではなく、「今こそが競争力を高めるチャンス」とローランド・ベルガーの遠藤功会長は声を張る。
米金融危機、株安、自動車産業の不振、雇用不安――。危機の連鎖に震えた2008年は「100年に1度」ともいわれる深刻な不況をつくり出した。今なお打開できるめどは立たず、多くの企業現場では暗闇の中を手探りで進む日々が続いている。
常日ごろより企業における「現場力」の重要性を説く戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの日本法人会長である遠藤功氏は、業績不振にあえぐ企業の現状をどう見ているのか。話を聞いた。
ITmedia 世相を表す漢字が「変」であったように、2008年は世の中が大きく揺れ動いた1年でした。特に9月に起きた米Lehman Brothersの破たんを皮切りに、「100年に1度」とも言われる経済危機が世界を襲っています。遠藤さん自身は2008年を振り返り、どのような印象を持たれていますか。
遠藤 5年後、10年後に検証してみれば、2008年は大きな変局の年であったと言えるでしょう。現在は真っ只中にいるので今後世の中がどうなるのかという絵柄は見えてません。ただし、不連続な変化が起きていることは間違いなく、2008年以前と2009年以降ではまったく違う経済構造、競争環境になると思います。
今まさに企業はトンネルの中にいる状態です。暗闇で周囲はよく見えないけれど、ここでどうビジネスを仕掛けるか、どうやって主導権を取るかを考えることが重要です。いろいろと手を打った企業と単に暗闇の中で閉じこもっている企業とでは、トンネルを抜けた後の差は歴然たるものになるでしょう。
トンネルの先が見えないから「どうしよう」と閉塞(へいそく)感に浸っているのではなく、トンネルを抜けたらこうしようという戦略を自ら仕掛けていくべきです。抜け出してからではもう遅いのです。
ITmedia 今回の一連の経済危機をどう見ていますか。
遠藤 今問題なのは金融が遊離してしまっていることです。デリバティブ(金融派生商品)やヘッジファンドなど、実体経済とは関係ないところでカネがカネを生む金融経済という虚構をつくり出してしまった。それがバブルというものを何十倍にも膨れ上がらせて、結果、弾けてしまったわけです。
ただし、こうした状況に陥ったことで、改めて実体経済の重要性に皆気付いたのではないでしょうか。ものづくりでもサービスでも消費者に価値を提供するのが実体経済であって、そこに適切な競争があり、優劣を競って切磋琢磨(せっさたくま)するのが健全な経済社会です。価値創造に関係しないところで富を生む仕組みというのが弾けてしまったわけで、もう一度実体経済に戻ろうとするのは当然の流れでしょう。
これは日本にとっていいことです。根本的に持ってる競争力が生かせるからです。コストや品質、新サービスなどの面で競争力を高めていくことが今後の日本企業にとって重要なテーマです。
ITmedia 経営品質の高い企業の代表例として、常々トヨタ自動車を挙げています。現在トヨタをはじめ自動車産業全体が苦しい状況にあります。
遠藤 短期的には苦しいと思いますが、トヨタだけでなく本田技研工業(ホンダ)などの日本の自動車メーカーにとっては、中長期的にはチャンスでもあります。この不況のトンネルを抜けたら米ビッグスリーとはものすごい差がついているはずです。今トヨタやホンダは競争力を高めるためにぐっと縮こまり、筋肉質な経営になろうと必死です。
不況が終われば恐らく米国の自動車市場も徐々に回復するでしょう。ただしその時には、米国での日本車のシェアは今よりも高くなっているはずです。今後は米国人も大型車ではなく燃費がよく環境に優しい小型車を購入するでしょうから、それを提供できる日本車の需要が増えていくことは明らかです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授