企業戦略の策定には、CIOの参画が必要不可欠だと話すマッキンゼー&カンパニーの横浜氏。そしてCIOを情シス部門が支えることで経営に寄与すべきだという。
国際的な金融不安が継続しているとはいえ、国内の多くの企業が4月からの新年度を迎えようとするこの時期、事業戦略、そして投資計画の立案は避けて通れない。このような状況下、「事業戦略とIT戦略はイコールだ」と喝破するのはマッキンゼー&カンパニーのBTOリーダー、横浜信一氏だ。
講演が行われたのは1月23日に開催されたIT資産管理セミナーでのこと。冒頭、横浜氏は「BT(ビジネステクノロジー)」という用語について言及した。ここでいうBTとは、一般的に「IT」とされるものに相当する用語だとのことだが、そもそもマッキンゼー&カンパニーでは「IT」という用語は使わないのだという。ITというコトバにとらわれることで「ビジネスとITをつなげる(結果としてビジネスとITを別物として考えてしまう)」という事態に陥ることを防ぐため。「BTのパラダイムとは、ビジネス=情報処理という考え方だ」(横浜氏)
横浜氏によると、ビジネスにおける情報処理はインプット、プロセッシング(加工)、アウトプットに大別されるという。アウトプットされた加工済み情報は生産活動に移行し、モノやサービスの生産につながる。そして市場に提供され、淘汰や成長を経て、冒頭の(情報)インプット段階へ回帰する。このサイクルが回ることで「豊かさ」が再生産される。歴史的には従来、各段階すべてをヒトが担っていたが、産業革命期に「機械」という担い手が登場し、さらに現在ではIT、バーチャルという要素が加わった。ビジネス=情報処理であるという考え方はここに根拠がある。
ここで横浜氏は、コンサルタントとしての自身の経験を述べる。クライアント企業に対しIT戦略についてヒアリングすると、「IT分野に対する投資計画」について語られることが多いという。しかし横浜氏は「単なる投資計画を、IT戦略といえるのだろうか?」と問いかける。
横浜氏のいう「戦略」の定義はこうだ。「時代の流れを先読みし、その中で自社の強みを生かした持続的な競合優位を作り上げるための施策の集合体」(横浜氏)
この考え方に従うと、IT“戦略”は事業戦略と密接に連携する必要があるはず。一般的には事業戦略の確定を待ち、そこからIT戦略を導き出すことが多いが、それでは単なる投資計画、運用プランに終始してしまう。「情報システム部門こそ、主体的に事業戦略策定に関わるべき」と横浜氏は提言する。そのためには、CEOやCFOだけでなく、CIOが積極的に“でしゃばる”必要があり、そして情シス部門はそのようなCIOを支える存在になるべきだと横浜氏は話す。
では「頼りになるIT部門の配置例」とはどのようなものだろう? 横浜氏は機能配置例(写真1)を挙げながら次のように話す。「IT部門は図中の“サプライIT”に忙殺されがちだ。だが本来重要なミッションは、ITアーキテクチャーの管理や投資マネジメント、人材の育成、インフラの整備やポリシー作りを行う“コーポレートIT”分野になる」(横浜氏)。上述した通り、多くの企業がIT戦略であると勘違いしがちな「IT分野に対する投資計画」は、あくまでもコーポレートITの一要素に過ぎない。
コーポレートITが確立すれば、自ずからIT部門の視点も変わる。従来、ITの視点としては「新規構築」と「既存保守/運用」という構造であった。それが「会社を変える」と「会社を回す」という、BTの視点へと成長できるのだという。
最後に横浜氏は、「ある企業のCIO兼COOによる話」として次のメッセージを紹介した。「情報システム部やIT部門という表現自体が、仕事の幅を狭くしている。自分たちは『業務システム部』と呼んでいる。事業に必要なのは業務の強化と、その業務に魂を入れることなのだから」
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授