2年の開発期間、2500億円をかけて完遂した三菱東京UFJ銀行のシステム本格統合プロジェクト。CIO(最高情報責任者)として6000人もの開発メンバーを率いた根本常務は、プロジェクトを推進するためには、社員やパートナーとの絆を大切に使命の重要性を共有し、全員が一丸となることだと語る。
「全員が心を一つにして、将来の飛躍のために統合プロジェクトを完遂させよう」──プロジェクトメンバー全員の固い決意のもとスタートした三菱東京UFJ銀行のシステム統合プロジェクト「Day2」は、開発期間2年、11万人月の開発工数、2500億円の金額を費やし、2008年12月に完遂した。システム統合プロジェクトのリーダーとして尽力した常務執行役員 システム部長の根本武彦氏へのインタビューを基に、その全容を2回にわたりお伝えする。前半はプロジェクトの概要や完遂の要因、後半では人材に対する考え方、情報部門のあり方を聞く。
ITmedia このたび完遂したシステム統合プロジェクトの概要を教えてください。
根本 三菱東京UFJ銀行は、旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行が2006年1月に合併して誕生しました。この時点で、海外、市場、証券業務にかかわるシステムは一本化しましたが(統合プロジェクト「Day1」)、預金、為替、融資などの国内業務にかかわるシステムは両行並存のままつなぎました。このため、お客様は旧両行どちらの支店、ATMからでも元々取引していた銀行のシステムを利用できましたが、商品やサービスは1つになっていませんでした。
今回のシステム本格統合プロジェクト「Day2」は、このシステムを1つにするためのプロジェクトで、開発期間2年、データ移行期間8カ月をかけて統合を完了しました。対象となるシステム群(200サブシステム)が支えるのは、口座数が4000万、1日の取引量が約1億件という巨大なものでしたから、開発規模は11万人月、ピーク時には6000人の技術者を動員する大規模なプロジェクトになりました。
主要な業務の内容は、システム統合後のデータ量や処理量の増加に対応すべくインフラを増強すること、システムを1つにするにあたりお客様に訴求力のあるサービス、商品を残すように差分機能を開発すること、新システムにお客様の元帳などのデータを移行することでした。
ITmedia プロジェクトを指揮する立場としてどのような点を心掛けましたか。
根本 情報システムの責任者として、「現場力」を最大に引き出すリーダーシップが求められていました。そこで、プロジェクトの組成にあたり、万全の準備、志の共有、実効性のある体制の確立を留意しました。
まずは、はやる気持ちを抑えて万全の準備をしようと心掛けました。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉がありますが、システムプロジェクトにも相通じるところがあると常々思っていました。先手で対策を講じたり、参加メンバーやわたし自身が計画内容を納得し、開始したら迷わず突き進む状況をつくり出すことが、大規模プロジェクトでは大切だと思いました。そこで、プロジェクトの特性やリスクを徹底的に分析して、これらをどのような手段で解消するかを明らかにするとともに、己を知るという観点から、現有要員数やスキル、調達力、既存システムの特性など持てる戦力を把握し、プロジェクト計画を立てました。
この過程で、ビジネスパートナーを含めた現場の力が旧両行とも極めて高いことや、システム開発にかかわる良き文化が根付いており、ビジネスパートナーとの良好な関係も築けていることを再認識できました。例えば、国内外のパートナー企業をわたし自身が訪問し、先方のトップにOSやミドルウェアを開発した技術者本人のプロジェクト参加を依頼しました。なぜなら、設計、開発、テスト各々の段階において技術的な課題が生じたときには、当社が利用している製品を開発した技術者自身の参画が問題の早期解決には不可欠との思いがあったからです。各社とも快く受け入れてくれました。
海外製品の利用も多かったので、海外技術者と共同でプロジェクトを進める「WWTAT(World Wide Technical Assurance Task)」というフレームワークにまとめて、どのプロダクトはどういう工程を経て技術者に参加してもらうかという計画を立てました。当社の担当者がDay2の特徴や設計にかかわるポイントなどを先方に伝え、留意点をフィードバックしてもらうという相互交流にも多大な協力を得ました。
次に、志や全員が共有できる具体的な目標をプロジェクト開始時点で定めました。志については、愛称や標語という形で参加意識や一体感を高めるためにメンバーから募集しました。その中から「プロジェクト“ONE”For Successful Day2」を愛称に決め、このメッセージを記したポスターをすべてのフロアに掲げました。志だけではメンバーのベクトルは集結しないので、客観性、数値化、検証可能性を重視して、具体的なゴールを達成するために232の移行判定基準項目(サービスイン・クライテリア)を定めました。ゴールと時々のマイルストーンを参加メンバーが把握できることが、6000人のプロジェクトを動かす上で重要だと考えたからです。
最後は、実効性のある体制の確立です。経営、ユーザー部門、システム部門の「三位一体」体制を構築しました。システムのPMO(プロジェクト管理オフィス)については、プロジェクト推進を主体とするPMOと検証を主体とするPMOを組成し、相互にけん制し合うような体制を整えました。双方から報告を受けることでプロジェクトの実態が浮き彫りになりました。加えて、大組織の整合性をとるため、プロジェクト開始段階からテスト移行推進グループや技術検証タスクといった組織横断的な横串機能を用意しました。何より組織全体が自力本願な対応を取れるよう責任体制を明確にしました。
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明治学院大学 経済学部准教授