企業のIT支出を見てみると、相変わらず多くを占めているのが定常コストであり、中でも人件費が大きな要素である。このうち、クライアントの管理やサポートに要する部分は、サーバに比べると台数が多く各拠点に分散しがちであり、ユーザーのリテラシーもさまざまであることから圧縮が難しい。だが、それゆえに改善の余地があると生熊氏は指摘する。
「日本は人件費が高く、これまで通りの人海戦術ではコストを圧縮できない。これまでは改革から取り残されてきたクライアントの運用管理であるが、ここを改革していけば大きな効果が期待できるはず」(生熊氏)
クライアントに関しては、サポートのコストも無視できない。IT部門が行うサポートはもちろん、PCの設定を教わるなどユーザー同士で行われる「ピア・サポート」も少なくない。これはユーザーの生産性を低下させる原因であり隠れたコストともいえる。こういったサポートに関するコストは、運用管理の効率化によって抑制できる可能性がある。逆に、クライアントの環境を大きく変えるとなれば、エンドユーザーへの再トレーニングが必要となる上に、使いこなせるようになるまではピア・サポートの頻度も増えてしまうだろう。サポートのコストは直接、間接の両面で大きなものとなる。
クライアント環境をほかのOS、ブラウザに移行するとしても、セキュリティやコンプライアンスに関してはWindowsを使い続けるのと同様、継続的に取り組んでいかねばならない。こうした状況を踏まえると、もし仮にWindows以外の環境に移行することで導入コストを下げたとしても、セキュリティなどのコストは変わらないどころか、サポートコストが高くなってしまう懸念がある。現状の環境で運用管理の効率化を進めた方が、全体のコスト抑制につながると言えよう。
「さらに次のクライアント更新のタイミングでは、大きなパラダイムシフトが生じて、新たな環境を選択するのが得策となるかもしれないが、ポストXPを検討する現段階では、現状の環境に近いクライアントOSとブラウザ、すなわちWindows7とIE8を選択するのが現実的ではないだろうか。たかがクライアントとあなどってはいけない。ERP(統合業務パッケージ)を導入するときと同様にきちんとした計画を立てて手掛けるべきだ」(生熊氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授