宙博2009において、将来のエネルギー問題解決の選択肢の1つとして講演や展示が行われていたのが、衛星軌道に巨大な太陽光発電システムを打ち上げるという「宇宙太陽光発電(SSPS)」だ。そのコンセプトや現状について前後編で紹介する。
最新の宇宙技術などを紹介するイベント「宙博2009」2日目の12月4日、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長の狼嘉彰氏は「未来の新エネルギー──宇宙太陽光発電」と題して、コンセプトや歴史、日本での研究の現状について講演した。また展示スペースでは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、京都大学生存圏研究所、無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)がパネルの展示を行っていた。以下、狼氏の講演を中心に紹介する。
宇宙空間で太陽のエネルギーを集めて地上に送って電力として利用するという「宇宙太陽光発電」(SSPS:Space Solar Power System)のアイデアは1968年に米国アーサ・リトル社のグレーザー氏がScience誌に発表した。これをもとにNASA(米航空宇宙局)が米エネルギー省と1979年に基本構想を発表したが、当時の技術が未熟だったことや経済性から批判を浴びて消えてしまった。その後1995年に議会からの圧力によって再検討を開始、2007年にはアラブ首長国連邦の依頼によってマサチューセッツ工科大学(MIT)でSSPSのワークショップを開催し、専門家が集まってかなり突っ込んだ議論が行われたという。
狼氏はSSPSの利点として、単位エネルギー当たりのCO2排出量がほかの発電方式に比べて圧倒的に少ないこと、静止軌道上にシステムをおいた場合には30年程度メンテナンスフリーでオペレーションできると考えられていることを挙げた。
現在検討されているSSPSの方式には、太陽電池によって発電してそれをマイクロ波に変換して地球に送り、マイクロ波から電力を取り出すマイクロ波方式 SSPS(M-SSPS)と、太陽光直接励起型レーザーによって太陽エネルギーを直接レーザーに変換して地表に送り、そのエネルギーで水素や電気を作り出してそれを利用するというレーザー方式SSPS(L-SSPS)の2種類がある。
M-SSPS実現のための技術開発のポイントは以下の通り。まず宇宙空間では1平方メートル当たり1.3キロワットの太陽エネルギーが得られる。これを太陽電池によって電力に変換する。1979年当時は12%程度だった発電効率は、現在は最高28%程度に向上し、さらに50%近い太陽電池セルが可能であるとの研究報告もあるという。なお、地表のメガソーラー発電所などと比較して、夜や大気・天候などによる効率低下が起きないため、SPSSでは常時最大効率で発電できることになる。
電力のマイクロ波への変換も半導体高周波増幅システムが非常に発展し、地表で受電するための一種のアンテナ(「レクテナ(RECTENNA)」)も開発が進んでおり、SSPSを支える基盤技術のレベルが高まっているという。日本では先頃成立した宇宙基本法に SSPSへの言及があるほか「グリーンエネルギーに関して予算がつぎ込まれる状況になっているため、さらに技術開発が加速する」(狼氏)と考えられるという。
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