世界最高水準である日本企業の新事業の創造力を引き出すのは、たぐいまれなる情報通信技術を基にしたクラウドコンピューティングの仕組みだ。クラウドは、国内企業の海外展開やビジネスを成功に導く大きな力となる。
日本産業界全般を議論するわけにはいかないが、日本企業のビジネス創造の潜在力は世界最高水準である。情報通信基盤を自由に使いこなせるクラウドコンピューティングという経営環境の登場は、ビジネスの創造力を引き出すチャンスの到来を示唆している。
クラウドコンピューティングの定義を厳密に議論することには意味がない。高度な情報通信機能を機動的に、低廉なコストで利用できる――こうした環境は、独創力のある企業にとって最高のチャンスなのである。
日本企業がビジネスを作るエネルギーを秘めているのは、疑いない事実である。情報通信システムという強力な道具を手に入れてからは、ビジネスが有効に生きている。その事実について、少し歴史をさかのぼってみよう。
わたしが日本経済新聞社で記者をしていた時代、まだ日本ではなじみの薄かったCIO(最高情報責任者)の連絡会が設立された。識者としてわたしも参加した。
1980年代後半、情報取材グループの現場責任者として、欧米の巨大ユーザー企業を訪ね歩いた。どこの企業にも、CIOという経営層がいることに気付いた。社長に並ぶほどの強い権限と重要な責任を持つメンバーだ。その事実を、日本経済新聞、日経産業新聞紙上で何度か紹介した。
当時、日本にはCIOという名前こそなかったが、それに近い職能の幹部を持つ企業は幾つかあった。その幹部の方が、情報交換を兼ねて集まった時のことだ。「日本の企業経営で情報システムの利用が遅れている」という評価をめぐって、議論が起こった。
この俗論に反対した面々は、当時、急ピッチで経営革新を進める花王や日本精工だった。ネットワークを基盤にまったく新しいビジネスモデルを創造したセブン-イレブンやセコム、翌日配達という日本型配送システムを発明したヤマト運輸、同様の配送システムを構築してサービス革新を起こしたトステムも含まれていた。
彼らの主張は「情報通信システムを基盤に構築した独創的なビジネスモデルは世界の最先端だ。日本企業一般を論じて卑下するべきではない」という激しいものだった。議論の主旨は「これらの日本企業に学べ」であった。
確かに国内企業は、経営トップが自ら端末を操作しているか、ERPを導入しているか、経営組織を簡素化するBPR(業務プロセス再構築)が成功したか、という観点では、世界の動向に出遅れた。だが情報システムの活用において、ある部分では極めて高度な活用をしていた。
その後、インターネットをベースにしたEC(電子商取引)が登場した。日本のオンラインバンキングシステムは世界に冠たる高度なもので、実はECの一部をすでに実現していた。お金をデジタル情報として仮想化したサービスモデルであることも明確になった。
さらに20世紀末以降に誕生したi-modeやSuicaなど、利用者(エンドユーザー)に直結するサービス分野においては、画期的なサービス革命が起こった。日本において、新しいビジネスのプラットフォームが形成されつつあることを示している。
この流れは、クラウド時代を生き抜くための極めて重要な視点である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授