名選手は名監督にあらず。部下を観察し、実現するためのプロセスを一緒に考え共に学ぶリーダーが名監督になる。
小学校1年生の体育の時間、1番低い跳び箱を1人だけ跳べなかったという記憶が残っています。肥満気味で運動ができなかったわたしは、スイスイと跳んで行く同級生を、異星人の姿を追い掛けるように眺めていました。
そのとき担任の先生が、たまたま校庭にいた校長先生にわたしのコーチ役を依頼しました。「吉田くん、まず跳び箱の上に乗っかってみよう」と言って、校長先生が踏み台からピョコンと低い跳び箱の上にまたがりました。
「これならできそうだ」。たぶん、わたしはそう感じたのだと思います。皆と一緒に跳ばなければならないというプレッシャーから解放され、校長先生のまねをして跳び箱にまたがりました。
何度か同じ練習を繰り返しながら、徐々に校長先生はわたしを誘導していきました。そして、その時間のうちに跳び箱を越えられるようになり、何とかクラスの仲間に合流したのです。
「まず跳び箱の上に乗っかってみよう」という校長先生の指示は今でも覚えていますが、その前に担任の先生がわたしに何を言ったかは覚えていません。たくさんの子どもたちの面倒を見る中で、1番初歩的なことができない子どもに教えるのは至難の業でしょう。
「できる人」にとっては当たり前のことが、「できない人」には大きな壁になります。これは仕事でも、よくあることです。ごく当たり前にやっていること、それは無意識の行為です。トップセールスマンも匠の技をもつ職人も、その卓越したパフォーマンスは暗黙知化しています。モノづくりの現場で技能伝承に苦労している現実があります。ちょっと次元を下げて世間を見渡すと、これと同じことがあちらこちらで起きています。
傷心のわたしが体育の時間内に跳び箱を跳べるようになったのは、あのとき校長先生が自分の暗黙知に頼らなかったからです。通常の組織論とは逆説的な言い方になりますが、暗黙知を形式知化するだけでは「できる人」のパフォーマンスを、「できない人」に伝授することは困難です。
なぜなら、AにBを加えてCに行けばDを達成できるよという順序立てた形式知は、そもそも物事を続けてこなせる、できる人の理論だからです。ABCDが混然一体となった暗黙知を形式知に変えても、跳び箱を跳べないわたしのようなできない人は、簡単にはついていけないのです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授