日本に勝機はあるのか――日本企業が中国市場で戦うための心構え世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(3/3 ページ)

» 2010年03月29日 08時15分 公開
[此本臣吾(野村総合研究所),ITmedia]
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高成長は2010年代も続く

 では、これから先の中国はどうなっていくだろうか。都市化が進む内陸部の高成長はしばらく持続していくだろう。今の水準の財政出動がいつまでも続くわけではないし、爆発的な耐久消費財の市場拡大もいずれはペースが緩やかになっていくだろう。しかし、内陸では農村地帯から都市部への人口移動がさらに進み、そこに新しい消費市場が生まれるという息の長い内需主導の成長がしっかりと始まっている。沿岸部がそうであったように、少なくとも今後10年は、消費が投資を呼び、所得増がさらなる消費拡大を招くという高水準の成長が期待できるだろう。

 また、沿岸部の経済は成熟化していくが、激しい競争が生み出す技術革新で産業の高度化が進み、消費市場も高付加価値化が進むだろう。例えば、2004年ごろに沿岸部はモータリゼーション元年と呼ばれたが、来年以降、この時期にエントリーカー(廉価車種)を取得した大勢の自動車保有者がワンランク上の中級車や高級車への買い替えを始めるのではないか。

 筆者らが2009年12月に訪問した深センの日系自動車ディーラーでは、最上級クラスの展示車まで売約済みで、納車までには2〜3カ月以上待たされている状況であった。金融緩和や株価上昇の影響で沿岸部においても自動車販売は急回復してきている。このように先進国と同様な買い替え需要主体の市場が形成され、より上位車種への需要も高まるだろう。

 一方で、環境やエネルギー、経済格差や社会保障制度の不備など課題は多い。自動車を例にとれば、環境、省エネ対策は待ったなしである。2009年の販売台数は1300万台を超えたわけだが、住民1000人当たりの自動車保有台数は北京で約250台、残りの都市は沿岸部の主要都市で150台程度、内陸部の都市になると50台から100台のレベルである。米国が800台、日本が600台であることを考えると、今後の市場の拡大余地はきわめて大きい。2010年代後半には2500万台から3000万台の可能性もある。

 しかし、市場が巨大化すればするほど環境・エネルギー問題は深刻化する。2009年3月に中国政府は「自動車産業調整振興政策」を策定し、同年7月、9月に相次いで新エネルギー車(電気自動車、プラグインハイブリッド車など)関連政策を打ち出しており、日本以上にこの問題には必死で取り組んでいる。

 2010年の中国経済政策の焦点は構造改革である。その中で最も重要なテーマが、成長の質的転換、すなわち、「成長エンジンを投資・輸出から消費へ」となっている。中国のGDPに占める個人消費の比率は30%台で、先進国の6〜7割という水準に比べるとはるかに小さい。ある意味では、それだけこの国の消費市場は拡大のポテンシャルがあるということである。消費喚起の政策は2010年にとどまらず、2011年からスタートする第12次5カ年計画においても重要政策と位置付けられるであろう。中国の消費市場は、今はまだ緒に付いたばかりの段階でこれからが成長の本番である。

 今後数年以内には中国事業が日本国内での事業を規模で上回るような日本企業も現れるだろう。そのような企業であれば、日本の経営基盤と同等か、それ以上のものを中国に作り上げる必要がある。組織、人材、IT、資金と経営資源のかなりの部分を中国に投入する必要が出てくるだろう。国内の事業部任せではなく、本格的な中国本社を構えて経営基盤強化に取り組むタイミングに来ている。日本企業の多くは全社収益で苦しい状況にあるが、中国への投資は果敢さを失ってはならないだろう。

著者プロフィール

此本臣吾(このもと しんご)

株式会社 野村総合研究所 執行役員 システムコンサルティング事業本部 副本部長

1985年3月、東京大学大学院修了。同年4月に野村総合研究所 産業経済研究部に入社。アジア事業開発部 上級専門職、台北事務所長、産業コンサルティング部長、技術・産業コンサルティング部長、コンサルティング第二事業本部 副本部長 兼 情報・通信コンサルティング部長を経て、2004年4月に執行役員 コンサルティング第三事業本部長 兼 アジア・中国事業コンサルティング部長。2009年4月より現職。

著書に「戦略的BPO活用入門」(監訳、東洋経済新報社)、「2015年の中国」(編著、東洋経済新報社)、「2010年のアジア」(共著、東洋経済新報社)など。



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