日本のIT業界では、買収直後にすぐには組織統合に踏み込まないケースが数多く見受けられました。しかし、「現状維持で大きな摩擦や混乱を避けよう」といった考えが逆効果になることが非常に多いのです。
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戦略面での甘さを排除し、BDD(事業精査)で買収先の真の実力値を見極めれば、買収がほぼ成功というわけではありません。買収の最終ステップであるPMI(買収後の事業統合)を成功させなければ、買収による成長を享受することできません。
PMIでは、2社の顧客基盤、商品やサービスのラインアップ、会計処理、給与体系、評価制度等々を統合していくことが必要となります。また、買収プロセスに関与していなかった数多くの人々を巻き込む必要がありますが、多くの人々は「これからわたし自身に何が起きるのだろう」と疑い深くなっているため、非常に難しい舵取りが必要となってきます。
今回はPMIを成功に結びつける秘訣(ひけつ)、いわゆる「PMIのゴールデンルール」について考えてみます。
これまで日本のIT業界では、買収直後にすぐには組織統合に踏み込まないケースが数多く見受けられました。
ある大手ベンダーの事例では、買収数年後に買収先の売上が40%下落してからやっと組織統合を決定しましたが、このような後追いの統合から、買収コストを正当化するだけの成長や効果発現を享受することは困難と言えます。
親会社や筆頭株主を変更したにもかかわらず、買収前と組織が変わらないが故に疑心暗鬼となってしまい、将来を不安視した技術者チームが競合に転職し、顧客もそちらに流れてしまったというケースもしばしば聞かれます。
実は「現状維持で大きな摩擦や混乱を避けよう」といった考えが、逆効果になることが非常に多いのです。我々は、買収後は迅速にPMIを進めることが必要と考えています。
組織の統廃合と人員削減は、最も難しい意思決定と言えるでしょう。しかし、経営陣は、将来の絵姿の前提となるこの決断を躊躇すべきではありません。将来に向かって「皆一体となって仲良く」という雰囲気を作ることは悪いことではありません。しかし、それだけでは長続きはしません。
PMIでの組織・人事に関する決断の遅れは、新しい経営陣に禍根を残すこともしばしばです。
日本のシステムベンダーの買収事例でも「各部門で、買収元と買収先から1人ずつ同格のリーダーとして配置する」という二頭政治を2年間継続した例があります。結局、買収後初めて黒字化するまでに6年かかりました。
このように組織が実質的に分裂した買収では、成果を確実に享受することは困難と言わざるを得ません。
まず買収後数日間で全ての従業員に、将来の組織の絵姿と自分の役割を理解させることが必要となります。残ることが明らかになった従業員にとっては、将来が見えることによる落ち着きが生まれますし、新しい経営陣からの期待値が明確となるため、高いモチベーションで新たな職務に取り組むことができます。
確かに必要とされなくなった従業員にとって、その決定は受け入れがたいものですが、転職支援や手当が十分用意されていれば、公平な処遇と理解されてくるものです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授