さまざまな変革を企業にもたらす三行提報。それは現場の声をトップへ直接届けるからこそのものだ。もちろん、現場から声が上がってこなければ、その意味はない。現場に声を上げさせる工夫が欠かせないのである。
三行提報は1976年からスタートしたという。当初は紙に手書きで、86文字までとされていたとのこと。なお、この文字数は、紙面の都合で決められたものであり、企業によって若干異なる。サトーでも、後に電子化した際には「画面上で3行に収めるため」(藤田氏)127文字にしており、他社では250〜350文字としているところもある。読みやすさや、必要な情報だけを書いてもらうために短文とする、という程度に考えておけばよいだろう。
重要なのは、ほぼ全社員が、毎出勤日に書いて提出し続けること。先に挙げた変革の例は、全社的な現場の情報を網羅できるようになっていたからこそ、実現できたものだ。
「毎日書かせれば日々の気付きを求められ、社員は“ネタに飢えた状態”になる。会社にとって都合の良くない情報も、むしろ喜んでネタにするので上がってきやすい。その意味では、苦しみながらも、ありのままの日常を書いてもらうのが正解なのだと思う。一方で、読む側も不都合な情報の数々を目にすることになる。それも毎日だから、あまりムキにならず、肩の力を抜いて読むようにしなければいけない」(藤田氏)
閲覧すべき数を減らすため専属部署で整理しているとはいうものの、三行提報では社員の生の声が上がってくる。それは先に説明したように、組織内の階梯を上ってくる過程で整理・集約されてながら届く情報とは、本質的に大きく異なったものだ。
「三行提報では基本的に、整理・集約されていない情報が得られる。それは、トップが経営会議の中で、ミドルに対して“現場は違う”と発言するための強い説得力にもつながる。通常の整理・集約された情報に対し、三行提報はカウンターバイアスの役割を果たすものだと思う」(藤田氏)
社員にも、三行提報を元にした大小さまざまな変化を通じて、経営への参画意識をもたらすことができる。ネタ欠乏の中で毎日書かされる苦痛はあっても、「自分たちの声が直接トップに届き、会社を動かすことができる」という感覚は、決して悪いものではないはずだ。
藤田氏は、三行提報を「ミクロプロセスとマクロプロセスの結合」と捉えている。ミクロプロセスは社員一人一人の日常の行動や考えであり、マクロプロセスは経営トップが全社的な検知から意思決定を行い行動すること。その両プロセスが、三行提報のようなコミュニケーション上の工夫によって直結するとき、新たな創発が生じるのだという。
「ミクロプロセスは、一つ一つをみれば些細な小事に思えるかもしれない。しかしそれを些末なことだと切り捨てず、トップはまじめに対応していく必要がある。ミクロプロセスは、企業を取り巻く環境全体を反映したものだからだ。“神は細部に宿る”という言葉もある。トップがミクロプロセスと対話することは、すなわち企業の置かれた環境全体との対話。そこからイノベーションが生まれてくる。そうしていれば、例えばJR西日本の福知山線の事故なども、決して防げないものではなかったとわたしは思う。もちろん、このようなイノベーションばかり重視してマネジメントを疎かにしていいというわけではなく、両方のバランス感覚が必要。そこには、美的感覚のようなものも求められるのだと思う」(藤田氏)
本稿は、早稲田大学IT戦略研究所が開催した第31回インタラクティブ・ミーティング『伝わる組織へ:「対話すること」と「褒めること」』から、株式会社サトー 取締役経営顧問 藤田東久夫氏のセッション『たった三行で会社は変わる』を元に再構成しました。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授