これまで6回にわたり、ビジネスモデルの変革期をリードするIT経営者に求められる要件と取組テーマについて事例を踏まえながら解説させていただきました。
2008年11月にIBMのSam Palmisano CEOが米国ニューヨーク市にある"the Council on Foreign Relations"で行ったスピーチでSmarter Planetという概念を発表しました。
これは世界中のシステムや産業がより機能化し、相互接続され、インテリジェントになり、社会基盤や産業がより効率的で生産性が高く、変化に迅速に対応できる、つまり、世界(地球)がより賢くなることで、交通や環境、エネルギー、医療といった地球規模の多様な課題を解決できるという考え方で、既に世界各地で取り組まれているさまざまな事例も紹介しています。(関連ページ)
その後、2009年10月には米国オバマ大統領が34億ドル(約3100億円)という巨額の予算を投じて米国の送電網を太陽光や風力などの自然エネルギーもとりいれて刷新すると発表し、世界中から注目されるようになったスマートグリッド(smart grid)と呼ばれる次世代送電網や、今年に入り、環境配慮型の次世代都市「スマートシティ」(注1)の実証実験が世界各地で始まるなど、地球をスマート化しようとする取り組みが急激に広がっています。
このスマートシティでは電力網や交通、水のほかにも、スマートハウス、スマートビル、グリーン・ファクトリー、電気自動車、ゴミ処理などさまざまな要素で構成されます。これを産業別で見ると、電機、自動車、機械、IT(情報技術)、建設、素材、金融など、ほぼあらゆる業種において新たなビジネスチャンスがあります。
例えば電機業界はスマートメーター、スマートグリッド家電、IT業界は超高速通信ネットワーク、クラウドコンピューティング、建築業界は省エネ照明・空調、新型断熱材、自動車業界は電気自動車や充電設備などです。
スマートシティは行政をつかさどる公的機関が主導して、そこにさまざまな民間企業が参画し、目標として掲げられているKPIを実現するために、交通、水の管理、電力の管理といった構成要素ごとにKPIを持つと同時に互いに連携して都市全体としてのスマート化を図ることが求められます。
一方、大半の民間ビジネスは1つの都市に閉じず、世界中の対象となる顧客(民間企業、公的機関、一般消費者)ごとに最適なサービスを効率的(ロスが少なく、タイムリーで安定的)に提供する「スマートなビジネスモデル」の事例が増えてきています。その特徴はスマートシティと同様、従来以上に個々の企業を超えた連携が成功要因となっています。
例えば、ある自動車リースサービス(図1)において、車両メンテナンス、事故対応などにまつわる、事務作業は膨大なTCO(手間・時間など)がかかっていましたが、自動車リースにかかわる、リース会社、保険会社、整備工場、そしてリース車両の利用者が、リース車両に関する情報をリアルタイムに共有し、車両メンテナンスや事故などにかかわるプロセスを自動化することにより、事務処理を削減し、迅速でスムーズなワークフローを実現しました。これにより、自動車リースにかかわるすべての関係者それぞれに以下のようなメリットをもたらしました。
リース車両のスムーズなメンテナンス手続き。修理の進捗状況をリアルタイムにオンラインで確認できる。事故の際の、修理や保険会社との手続きが迅速に。紙の使用量削減。
修理が必要な車両の情報を、自動通知で迅速に入手。リース車両利用者との連絡がスムーズに。紙の使用量削減。
管理コストを35%削減。紙の使用量削減。
事務費用を50%削減。紙の使用量削減。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授