クラウド狂想曲――ITベンダーが生き残りを賭けて奏でる騒音伴大作の木漏れ日

クラウドをキーワードに、ITベンダーが奏でる音楽――2011年はどのような旋律となるだろうか?

» 2011年01月28日 08時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

 年明けから、ITベンダー各社はほぼ一斉に「今年はクラウドが本格的な普及に入る年だ」と言いはやすようになった。

 僕は、誰もクラウドに注目していなかった頃から、クラウドを追いかけているが、正直なところ、これ程大きな話題を呼ぶようになるとは思わなかった。それより過去話題になった「グリッド」のように、クラウドが「はやり言葉」で終わりはしないかと心配になってしまう。

 だからこそ、もう一度原点に立ち返って「クラウドコンピューティング」の本質を確認したい。

Oracleのクラウド戦略

 2010年12月16日に、米Oracleからグローバルテクノロジービジネスグループ担当バイスプレジデントを務めるロバート・シンプ氏が来日し、報道陣に対する同社クラウド戦略の説明会が開催された。

 シンプ氏は、エンタープライズ分野のコンピュータシステムはサイロ型からグリッドへ、そしてプライベートクラウド、ハイブリッド、やがてはパブリッククラウドへ進化すると説明し、最終の段階に到達するにはおよそ5年かかるとの予測を示した。

 また同氏は、オラクルが展開しているハードウェア(富士通のMシリーズを含む)、ミドルウェアそしてアプリケーション製品が、どのようなクラウドであれ、他社のそれより優れていること、ほとんどの製品がクラウド対応であること、そしてサービスとして提供する準備も整っており、βテストに入っていることを主張した。

 確かに、当初は米HPと共同開発したExadataを、米Sunの買収後はSunのプラットフォームに移行したり、Java実行環境として優れた性能を発揮するExalogicを発表したりと、オラクルのクラウド対応は急速に進んでいる。さらに、2010年の夏までHPのCEOだったマーク・ハード氏をCEOとして獲得し、経営面での人的整備も進んだと言える。

クラウド時代の生き残り競争が激化

 そもそもクラウドの主役は誰だろうか? 今や米Googleは別格として、米Amazon.comや日本の楽天、ヤフー&ソフトバンク連合などがプレイヤーとして挙げられる。彼らと同種のサービスはニフティも提供している。

 加えて米AppleのiTunes Storeだって、そのシステム規模や実行環境を見る限り、立派なクラウドだ。

 彼らに共通するのは、インターネットを経由して自らサービスを提供する事業者という点だ。従来のコンピュータビジネスの概念では、彼らはユーザーに該当する。しかし今は、かつてのユーザーが主役になったということだ。彼らにとって、クラウドは自らのサービスを良質に、また安価に提供する手段に過ぎない。

 彼らに共通するのは、いわゆる“カテゴリーキラー”だということだ。Googleは米Yahoo!と検索エンジン分野で覇権を争い勝利した。Appleはインターネット時代の音楽ビジネスで勝利を収めた。イーコマースの世界ではAmazon.comと楽天が、それぞれリーダーシップを握っている。上には記載しなかったが、SNSでは米Facebookと日本のミクシィが、さらにショートメッセージブログの世界では米Twitterが、それぞれの分野で市場の大半を握ることとなった。いわゆる「Leader take all.」を成し遂げているわけだ。

 今後も、新たに登場するサービスがあるはずだが、その出現と同時に進む生き残り競争では、パイオニアが参入者利益を確保できるのか、それとも後発の企業が、新しいテクノロジーやマーケティング手法で市場を制圧できるのかが、気になるところだ。

クラウドに乗り遅れたベンダー

 一方、彼らにIT製品を提供するハードウェアベンダーやソフトウェアベンダーは、クラウドの流れに出遅れたと断じざるを得ない。

 もちろん、“IBM Cloud”のサービス開始を宣言した米IBMや、既に述べたとおりクラウドビジネスへの取り組みを積極的にアピールしているOracle、国内でもトップダウンでクラウドビジネス展開を進めてきた富士通、そして「Azure」を旗印にクラウドサービスに名乗りを上げた米Microsoftなどの動きはそれなりに評価されるべきだが、彼らがクラウドビジネスとして得ている収入は、それほど大きなものではないだろう。

 これは、ベンダーが営んでいる現在のビジネスの中心が、いまだシステム販売という、いわゆる「物売り」にとどまっているのが最大の理由だろう。

 またコーポレートビジネス分野では、パイオニアでもある米salesforce.com以上に力を持つプレイヤーは現れていないのが実情だ。これがコーポレート業界の全てを物語っている。クラウドという言葉がもてはやされるのとはうらはらに、大手ITベンダーといえども生き残れるか否かが分からない、予断を許さない状況が今年も続く。

爆発的に増加するクラウドサービス

 このような状況がある一方、2011年もクラウドは、コンシューマー市場を中心に大きな展開を見せるだろう。特にモバイルブロードバンドが普及期に入ると、爆発的に市場が拡大するはずだ。これまでのクラウドは、PCとインターネットを中心に提供されていたが、今後はそこにモバイルの世界が加わるからだ。

 僕はこれまでクラウドはサービスであって、製品ではないと主張してきた。その上で考えると、多くの伝統的なITベンダーは、今後も現在の力を維持できるのか、はなはだ疑問だ。

 その典型が、スマートフォンのOSやプロセッサであり、クラウドサービスに用いられるハードであり、ソフトだ。これらの中で、いわゆる“Wintel”製品はどれほど使われるだろうか? クラウド時代のクライアント、つまりスマートフォンやタブレットに用いられるOSは、今のところiOSであり、Androidが主流だ。プロセッサもARMやPower系が幅を効かせている。クラウドを支えるサーバOSの主流はLinuxであり、一部にWindowsやUNIXが用いられるに過ぎない。サーバ向けCPUも、米Intelの独壇場とはいえない。確かにIntelアーキテクチャは有力だが、米AMDもプレイヤーとして存在し、現行のIAサーバにAMDのCPUが載る未来が来ないとも限らない。

 クラウドシステムを構築する上で、サーバやストレージの障害は少ない方が良いに決まっている。だがそれより重要なのは、一定の性能を担保できるのなら安価なマシンで十分ということだ。別に有名どころのベンダー製品を購入する必然性はない。

 爆発的に増加するクラウドサービスに必要とされるハードとソフトには従来の常識はまったく通用しない。新しいものさしが必要になっている。

クラウド化の波

 モバイルがクラウドサービスに加わるとなると、そこにはどのようなアプリケーションが現れるのだろうか。

 まず我々は、携帯電話とPCで、それぞれどのようなアプリケーションを使用しているのか考えてみよう。そうすると答えは自ずと明らかになる。

 一般に携帯電話を利用する目的は、コミュニケーションが中心だ。ここで言うコミュニケーションとは、音声電話であり、メールである。それ以外では、スケジュール管理を行っている人も多い。

 それに対しPCは、文章を書いたり、表計算を行ったり、プレゼンテーションをしたりするという目的がある。加えて、グループウェア経由で社内システムに接続し、他のスタッフとコラボレーションするためにも使用する。Webサイトの更新やブログのエントリーもそうだ。

 こういったことは、既にスマートフォンやタブレットのアプリケーションでも可能になっている。しかし問題は、サーバ通信時のセキュリティとUIだ。企業向けアプリケーションの多くは、(セキュリティなどを理由に)オープンなインターネット上での利用を推奨していないからだ。

 だが僕は、多くの企業が2011年以降クラウドへの対応を進め、その結果として、ユーザーが手組みで作るクローズなネットワークのアプリケーションは急速に姿を消すと考えている。これがクラウド化の真の姿であり、その波が今年から始まるのだ。

 それにしても、ITベンダー各社が打ち上げるクラウドコンセプトは、どれも同じように聞こえてしまう。どこかで聞いたような話を切り返し聞かされても、それはただの騒音に過ぎないと思うのは、僕だけだろうか。

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