ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その2エグゼクティブのための人財育成塾(3/3 ページ)

» 2011年07月06日 07時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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実行時の巻き込みプランを立てる

 実行に向けて最も大事なのは、誰にどんな役割を担ってもらい、取り組みをいかに成功させるかのプランである。組織の中には、取り組みに賛成の人もいるが、中立、時には反対の人もいる。中立の人には、出来る限り目的、趣旨を理解して、賛成の立場になってもらう必要がある。

 反対の人には、できれば賛成してもらえるようにしたいところだが、難しい場合も多い。しかし、反対の意見を持ちつつも、少なくとも表だった反対の言動や、取り組みの妨害をしないように考慮する必要がある。また、個々人により知識、スキル、行動力や余力にも差がある。適切な人に必要な役割を担ってもらえるように、関係者を誰が、いつ、どのように巻き込んで行くかのプランを立てておくのである。

 例えば、今回の取り組みでは吉田君をうまく巻き込めれば活動は大きく前進するかもしれない。吉田君は、その言動から判断すると、5S活動の優先順位は低く、会議の場でもその活動を否定するかのような発言をしている。このような人を前向きにできれば、その他のメンバーへの影響も大きいと思われる。

 では、吉田君をいかに巻き込むか。いろいろな方法があると思うが、例えば吉田君が一目置いている上司を巻き込むのも1つの手である。高橋係長がそのような人物であったとすれば、高橋係長の考える実行手段も一緒に話し合った上で、高橋係長から吉田君を指導してもらう方法もある。

 あるいは、若手の田中さんを巻き込んで協力してもらってもよい。例えば、田中さんに手伝ってもらって、吉田君がいる時に吉田君の机の上を整理するのを手伝ってもらう。そこで、吉田君でも簡単に机の上が整理できるようなやり方をうまく伝え、短時間で実践できるようにする。

 更に、机の上を整理しておくとムダやミスが少なくなる事が実感できるようにできればなお効果的である。しかし、このような取り組みではなかなか効果を実感できないかもしれない。

 そのような場合には効果を出している人に協力してもらえるようにするのが有効である。例えば、取引先の山下課長を巻き込んで、自部署に来てもら具体的な取り組みの話をしてもらったり、あるいは現場を見学させてもらったりするのも有効である。必要に応じて社内だけでなく社外も巻き込むことで、より効果的な取り組み手法を考えることができるのである。

 取り組みの全体像を俯瞰し、関係者間の相関関係を洗い出し、取り組みに対する個々人の考え、能力などを整理した上で、関係者に担ってもらう役割を考え、巻き込みプランを立ててから行動すると、より効果的な実行計画を立てる事が出来る。

目的を共有して行動に移す

 最後に、行動を起こす際に最も肝要な「目的の共有」に関して触れておく。星君は、5S活動を行ってうまくいっている取引先を見て、その活動を当社に取り入れるべきだと提案したが、周りのメンバーはそれを見ていない。

 取引先では、なぜうまくいっているのか、どうやっているのか、その取り組みの効果がどれだけ出ているのか、具体的にイメージを持てないメンバーもいる。そこで、いきなりこの活動を実践しようと言っても、なかなか納得できないだろう。

 中には、「忙しくてそれどころじゃない。何を言っているのか。」などと思っているメンバーもいるかもしれない。関係者の「納得」を得るためには、できるだけ具体的に趣旨と取り組み内容を説明しなければいけないのである。

 当然、説明だけで「納得感」が得られない場合もあるので、その際には実行計画の中で具体性を持ってもらうために何を用意しているかも説明すべきである。そして、この活動のメリットが何か、どうやったら実現できるのか、何を協力してもらいたいのか、役割分担をどうするかなどを、どちらかというとこのような取り組みに後ろ向きになる人の感情にも配慮して説明する必要がある。 また、自分で説明するより、他の人が説明した方が全員の賛同を得やすいのであれば、そこも考慮すべきである。何事も最初が肝心。上述したプロセスをしっかり踏み、必要な人を巻き込んで事を起こす必要がある。

 今回は、「巻き込み」の具体的なプロセスを理解するために、身近な分かり易いケースで行動を起こすまでの解説をした。しかし、実際には、行動を起こしてから発生する状況の変化にいかに対応して目的を達成するかが非常に難しい事は、読者の皆さんは十分分かっていると思う。次回からは、もう少し広いテーマのケースを題材に、実践で具体的にどのような「巻き込み力」が求められるのか、場面、場面でどのようなスキルが必要になってくるのかを解説していく。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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