ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その3エグゼクティブのための人財育成塾(3/3 ページ)

» 2011年08月03日 07時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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勝算を考える

 次に、この目的・ゴールに対する勝算を考えなければならない。自分がリーダーとして動くことで、この取り組みをどのように進め、どのような落とし所に導けるかのイメージがなければ、中心になって具体的に事を進めることはできないだろう。勝算を考えるに当たっては、以下のポイントを検討する必要がある。

 (1)取り組みの落とし所のイメージ

 今回の件は、豊かな生活社での電子書籍への取り組みである。もちろん、今後のトレンドを見極める事も重要だが、ビジネスとしては最低限でも具体的にどのようなコンテンツで電子書籍市場に打って出るかを明確にすることは求められる。そうなると、現在保有している分野で具体的にどのようなビジネスを作る事ができるかの仮説は持っていなければいけない。

 豊かな生活社では、料理系の実用書を出版している。例えば、この分野であれば、料理手法を動画、音声も織り交ぜて分かり易く提示できるようにすることは当然求められるであろうし、これに加えて料理をする人が専門用語を忘れても必要な食材やレシピなどを簡単に検索できるような仕組を用意すれば他社との差異化を図れるかことができるかもしれない。そもそもこのようなアイデアが現実的かどうかも含め、自分なりの落とし所を出来る限り具体的に考えておく必要がある。

 (2)社内での体制構築のための協力

 リーダーを引き受けるに当たり専任で取組む事ができれば良いが、現在の仕事と兼任になる事がほとんどである。その際には、やはりどれだけの時間をこの取り組みに避けるか、そして現在の仕事に対するサポートをどのように受けられるかも明確にしておく必要がある。

 更に重要な事は、この取り組みに協力してもらわなければならない他のメンバーの協力体制の構築である。協力してもらいたいメンバーをアサインできるのか、またアサインした場合にそのメンバーの現業に対するサポートもどこまで得られるのか。このような事をオーナーと事前に確認しておく必要がある。また、この取り組みに否定的だと思われる人がいる場合には、取り組みに対してマイナスとなる言動を行った際に排除するための協力を得る方法も考えておいた方が良い場合もあるので注意して欲しい。

 (3)社外との関係構築のための協力

 今回の件では、電子書籍に関わる外部ステークホルダーとも情報交換や議論を行う必要が出てくる可能性がある。そこには、恐らく島田編集長がこれまであまり縁のないハードメーカーやキャリア、ITのソリューションプロバイダーといった企業と、同業の出版社や書店などの企業も含まれる。このような企業に自らアプローチして議論できれば良いが、難しい場合もある。そのような際には、時にビジネスでの提携も含めたトップアプローチも必要となる。このような相談ができる、またその相談に対し前向きな検討がしてもらえるという協力を得られるようにしておく必要がある。

 上記ポイントが全てクリアされればそれに越したことはないが、実務ではそんなに簡単に行かないことがほとんどである。上記ポイントを意識し、できる限り明確にしてからリーダーとして機能するか、取り組みを成功に導けるかを考えてからリーダーを引き受けるべきである。そして、自分がリーダーとして適任ではないと判断した場合には、他の適切な人をリーダーとして推薦すると同時に、自分がリーダーをサポートする立場としてどのような役割を果たしたいかの提案もすべきである。大事なのは、取り組みを成功させること。その目的とゴールを押さえて、リーダーを引き受けるかどうかから考えて欲しい。

 次回は、豊かな生活社での具体的な検討が始まったシーンを題材に、初期ブレストでリーダーがファシリテーターとしてどのような事を考えて行動すべきかに関して解説する。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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