3、上からの指示を、単に下へ流す「伝達役」になり下がる例だ。大手の某電子部品メーカーの取締役事業部長は、本社会議で社長から「赤字製品は止めろ」と言われ、事業部へ戻るや否や部下に指示した。「社長に言われたので、赤字製品は止める。取りあえずA製品はすぐ顧客に断れ」。部下はA製品の黒字化計画、顧客に対する納入継続義務、A製品にかかる人員や間接費用の処置が直ちに必要なことなどから、A製品廃止のための多少の検討時間を要求したが、事業部長は頑として聞き入れず、A製品の即刻廃止を譲らなかった。それから、関係者は大変なトラブルに巻き込まれていく。
4、効率の悪い「会議」が、多過ぎる。例えば、(1)とにかく関係者をことごとく集めようとする会議がある。出席者の多くは会議中の出番がほとんどない。(2)文書回覧やメールで済むような単なる連絡のために開催する会議で、管理部門召集が多い。(3)以上の場合は、時間の浪費になるものの会議で一息つけるというメリット(?)があるが、膨大な資料と時間を要する会議が頻繁に開催されるのにはホトホト参る。
某大企業の例だが、事業戦略会議、開発会議、マーケティング会議、予算会議などなど、内容で重なる部分がある会議がそれぞれ毎年2回ずつ開催されるので、毎月大会議が開催されているようなものだ。そのたびに、関係部門は膨大な資料作成のために人手がとられ、まるで戦略計画ばかり作っていて、それを実行する人手も時間もない。
5、「管理部門の都合」を押し付けられるケースだ。例えば、(1)某大企業で人事部門が、人事評価制度を定性的評価から定量的評価へ移行した。しかし、ライン部門は新しい定量評価をルール通り行ったところ、従来の定性評価と大きく異なる結果を得た。慌てたライン部門の管理者は、従来の定性評価で評価をし直し、その結果に定量評価の点数を逆算配分した。ライン部門の評価時間と手間は従来の比ではなく、こんな理不尽なことが2年も続いている。(2)某中堅企業の経理部門情報グループが、本来は業務を見直してから導入すべきERP(Enterprise Resource Planning 企業資源管理)を従来業務のまま導入したため、ユーザー部門は大混乱に陥った。
6、「社外絡み」からのディスターブだ(「社外」そのものではない。「社外が絡んだ」という意味)。(1)営業部門や資材部門の担当者が不勉強なため、取引先と打ち合わせをする際に、設計・検査・製造などの関連部門担当者が呼び出される場合がたびたびある。時には、取引相手先まで引っ張り出される場合もある。
(2)時に訪問して来る、会社OBの相手もバカにならない。急にぶらりとやって来たOBが(そういうOBは、口うるさいタイプが多い)、世間話だけでも対応が煩わしいのに、業務上の口出しをすることがある。某中堅企業の元社長は話の勢いに乗って、古臭い昔の知識と経験から業務上の宿題まで出す。挙句の果てに、あろうことか次回来訪の時ご丁寧にそのフォローアップまでする。心を打つアドバイスなら耳を貸すことにやぶさかでないが、基本的に今の業務については「現役に任せておいてくれ! 」と叫びたくなる。
これらの実例から、部下がディスターブされて困惑している元凶が明らかになる。
などとなる。ここで、「盾」の対象となるインベーダーはほとんど社内に存在することが分かる。さらに実に皮肉なことに、上司自身がインベーダーになるケースが少なくない。
では、社外からのインベーダーは存在しないのか。クレーマーなどの稀な例外はあろうが、「社外」(顧客、競合他社、業界、外注メーカーなど)は、彼らからあらゆる機会を捉えて顧客・市場情報を収集すべき対象であって、煩わしく思っても積極的接触を図るべき相手だ。外注からも客観的意見を聞くことができる。「社外」を、ディスターブするインベーダーと基本的に決め付けてはならない。
以上の実例から、上司がどのように部下の「盾」になるべきかのヒントが得られる。ただし、部下を純粋培養しろと言っているのではない。
以上を踏まえて、次回は上司がいかに部下の「盾」になるべきかを検討する。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授