プロジェクトのリーダーを引き受けた際、まず手始めにどのような事を考え、どのようなアクションをとるべきであろうか。
豊かな生活社の若手編集長である島田は、同社の電子書籍ビジネスへの参入検討プロジェクトのリーダーを務めて欲しいと高橋部長から依頼された。島田編集長は、このような新規事業参入に向けての検討を行った経験がないものの、個人的にも電子書籍への取り組みは必須と考えていたため、リーダーを引き受ける意思を固めていた。島田編集長は、来月の編集部会議でこのプロジェクトを正式キックオフするための準備にさっそく取り掛かることにした。さて、このようなプロジェクトのリーダーを引き受けた際、まず手始めにどのような事を考え、どのようなアクションをとるべきであろうか。
高橋部長からプロジェクトリーダーを引き受けて欲しいと打診された島田編集長は、電子書籍への取り組み検討を高橋部長に命じた高杉社長の意向も直接聞いた上で最終的な決断をしたいと考え、高橋部長に社長とのミーティングを設定して欲しいと頼んだ。高橋部長は、島田編集長にプロジェクトリーダーを依頼した経緯(前回コラム参照)を高杉社長に伝え、早速ミーティングを設定した。そのミーティングで、高杉社長は電子書籍への取り組みは「待ったなし」の状況であり、来期には電子書籍事業を本格的に立ち上げたいと考えている事を両名に説明した。
そして、今回の取り組みで発生する様々な意思決定事項に関しては、高杉社長本人が行っていく考えを持っている事を伝え、3カ月で具体的なビジネスプランを立案して経営会議に提案するように依頼した。その提案が承認されれば、今期中から具体的な準備作業を開始する事は既に経営会議で承認済みである。この説明を聞き、島田編集長は検討の方向性として1点確認をとった。それは、豊かな生活社の主要6分野のうちどの分野から電子書籍事業を始めるかに関してだが、市場性なども鑑みて料理系の実用書もしくは自然科学系の出版物のどちらかの分野からこの事業を手掛けるべきだと考えていた。この考えに対し、高杉社長も同意見であった。そこで、島田編集長はこのミーティングを受けて高杉社長と高橋部長にプロジェクトリーダーを引き受ける意思を伝えた。
プロジェクトのキックオフである次回の編集部会議まで3週間しか時間がない。島田編集長は、キックオフまでに行うべき事を考えた。まずは、プロジェクトチームメンバーの選定である。電子書籍ビジネスを検討するに当たっては、ネットも含めた広範なITの動向に関する知識が必須である。そこで、島田編集長は情報システム室の中野室長にサブリーダーをお願いしようと考えた。中野室長は、昨年度の雑誌連動サイト構築の取り組みに向け、一昨年に高杉社長が知人のつてを使ってSIerから引き抜いてきた人材である。年齢は38歳で豊かな生活社では比較的若手だが、前職でシステム構築プロジェクトなどを数多く経験してきていると聞いている。
島田編集長は、早速中野室長に今回の件を説明してサブリーダーを引き受けてもらえないかと相談したところ、電子書籍への取り組みを行うべきと個人的に考えていた中野室長は喜んで引き受けてくれた。
島田編集長と中野室長は、通常業務終了後に時間をとり、3ヶ月間の活動計画とプロジェクトメンバー候補を検討し始めた。電子書籍事業における具体的なビジネスプランを提案するということは、
・電子書籍事業の収益源を明確にしたビジネスモデル
・3カ年の収支計画案と初年度の具体的なビジネス展開計画
・準備期間を含めた実行体制と初期投資
といった内容は最低限盛り込まなければならない。この内容を詰めるためには、電子書籍を軸として
・標準化、端末、およびインターネットの動向
・競合他社、取次店、書店、印刷業者などの出版業界プレーヤー、およびIT関連企業の動向
・参入の足掛かりとなる料理関連、および自然科学関連の市場ニーズと環境変化
・豊かな生活社が保有する活用可能なコンテンツなどの経営資源
・著作権に関する業界団体の動向
などに関しての調査・分析を行わなければならない。島田編集長と中野室長は、このような内容を検討していくメンバーとしては、変化の激しいITへの抵抗感の低さ、市場ニーズに応える事業内容を考える思考の柔軟性、短期間でのタイトな仕事にモチベーション高くコミットできる気力と体力などが必要と考え、30代半ばから後半の若手をターゲット2分野の編集局から1名ずつ、その他の部署から適切な人材を1名選定する事とした。そこで、まず料理系の相田編集長(48歳)と自然科学系の峰岸編集長(45歳)にこの件を相談し、協力を得るためのミーティングを設定した。さて、2人は両名から上手く協力を得られるであろうか? 2人は、どのような準備をしてこのミーティングに臨むべきであろうか?
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