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» 2011年09月07日 07時00分 公開

エグゼクティブのための人財育成塾:ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その4 (2/2)

[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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議論する相手の立場・見解を考え、目的を達成するために必要な準備をする

議論する相手の立場・見解を考え、目的を達成するために必要な準備をする

 「うちで取組むのは、まだ早すぎるんじゃないかな? 」、「電子書籍への対応なんて、うちの人材じゃできないんじゃない? 」、「一体幾らかかるの? 今のうちじゃそんなに投資できないだろうからね。」ミーティングの冒頭から、相田編集長と峰岸編集長が発しそうな意見である。島田編集長と中野室長にとって、今回のミーティングの目的は相田編集長と峰岸編集長からプロジェクトへの協力をコミットしてもらい、両編集局からプロジェクトメンバーをアサインしてもらうことだが、最初からこのような否定的な意見を出されてしまうと思っていたように議論は進められないだろう。

 島田編集長と中野室長は、高杉社長のコミットメントという御旗を得、自らもこのプロジェクトを積極的に進めていくべきだと考えている。一方、相田編集長と峰岸編集長は電子書籍ビジネス自体を、そして豊かな生活社がこのビジネスに取り組む事をどう考えているだろうか? これまで紙媒体主体の出版を行ってきた編集長の多くはITに関して疎く、前回の編集部会議では他社の動向などを見極めてから具体的な取り組み方法を考えるべきという意見が大勢であった。そうすると、相田編集長と峰岸編集長もこのプロジェクトに対して積極的である確率は極めて低い。良くても中立的(自身では取り組むべきか判断がつかない)、悪ければこの取り組みに対して否定的かもしれない。

 市場が縮小しているとはいえ、紙の書籍・雑誌市場は1兆8,478億円の巨大な市場である。新たな取り組みをする以前に、この市場で如何に勝ち残るかが優先順位の高い課題と考えている可能性が極めて高い。このような考え方を持っていると想定される相手から協力を得るためには、相手が意識していると思われる論点を整理して議論できるようにすると同時に、プロジェクトの意義を「納得」して協力してもらうために何を伝えるかを準備しておく必要がある。

 まずプロジェクトの意義に関しては、競合他社を含めた電子書籍ビジネスの動向とここで取組まなかった場合のリスクを「相手が理解できるように」話せる準備をしておく必要がある。

 また、電子書籍事業に取り組む事が既存の紙媒体のビジネスにも寄与する事、事業間シナジーがどう作れると考えているかに関しても説明すべきだろう。このポイントに関しては、現有コンテンツの再利用、紙媒体と電子書籍でのコンテンツの共通化などを具体的な事例を挙げて説明し、概念ではなく具体的なイメージがつかめるレベルで説明できるようにしておく必要がある。次に考えておくべきことは、プロジェクトおよび電子書籍事業の実現性である。

 プロジェクトに関しては、自部署のメンバーをアサインするとなると、その分戦力が落ちることになる。部署の責任者としては、自部署の優秀なメンバーの工数と意識を他の仕事に取られるのは避けたがる場合が多い。この穴を補填する施策を用意できればそれに越した事はないのだが、知識と経験も必要な役割を代替する事は往々にして難しい。そうすると、プロジェクトに割いてもらう工数などを想定し、できる限り現行ビジネスに影響を少なくするように配慮している事、更には現行ビジネスの作業量に応じてプロジェクトの作業を柔軟に調整する事などを考えておく必要がある。

 そして、最後の論点として電子書籍事業の実現性に関しても粗いレベルで構わないので仮説を用意しておく必要がある。否定的な見解を持っている人からすると、実際に電子書籍事業を行うには豊かな生活社の社員が持っていないスキルや知識を有した人材が相応数必要になるのではないか、更にはかなりの投資額が必要になるのではないかという懸念を持っている可能性がある。この懸念から、結局検討しても実際のビジネスは立ち上がらない、あるいは上手く行かないのではないかと言う疑問を呈するだろう。このような見解に対し、具体的には今後検討するものの、自前主義にこだわらずに必要な経営資源を調達する考え方なども含めたオプションを説明できるようにしておく必要がある。更に、投資に関しては社長の高杉社長とある程度の目安は握っておく必要があるだろう。

 以上、今回のケースの内容に沿って島田編集長と中野室長が2人の編集局長とミーティングを行う前に考えておくべきと想定される主要な事項を解説したが、会議で目的を達成するためには会議の場でのファシリテーションも重要だが、会議に参加するメンバーがどのような見解を持っているかを押さえ、会議でどのような意見が出るかを想定し、そこで議論すべき事を整理しておくことの方が重要なのである。このような論点を押さえるツールとしては、ロジックツリーやマインドマップ、フィッシュボーンなどの論理思考ツールを使う事が効果的であろう。使いやすいツールを使って予め論点を整理し、目的を達成するためにどのような配慮をしながら議論すべきかを考え、参加者に納得感を持って次の行動に移ってもらえるように行動する必要がある。

相談のアプローチを考える

 最後に、「巻き込み力」という観点から、相談のアプローチに関しても解説しておく。今回のケースでは、島田編集長と中野室長は2人の編集長とミーティングを設定して協力を求める手法をとったが、相手の個性なども考慮して他のアプローチも検討した上で最善と思われる手法をとるべきである。「人を巻き込む」際のアプローチとして考えるべき主要ポイントを以下の図に示す。

 今回のケースでは、注意すべきは「どんなやり方で」と「誰が」である。島田編集長と中野室長は2人の編集局長と同じ場で議論をしたが、個別に議論しても構わない。また、会議という公式の場でいきなり話をするのが良いのか、休憩時間や終業後などを利用して非公式に相手の見解を含めて議論してから公式の場で議論した方が良いのかも考える必要がある。相手が目上でベテランであることを考慮すると、自分たちだけで直接話をした方が良いのか、高橋部長あるいは高杉社長にお願いした方がいいのか、または会議に部長と社長も同席してもらった方が良いのかも検討した方が良い。

 2人と同年代、または目上の編集局長で電子書籍への取り組みに前向きな意見をもっている人がいるのであれば、その編集長にもミーティングに参加してもらうのも1つの手である。(その場合には、ミーティングへの参加を要請しなかった他の編集局長への配慮も必要だが。)その他の方法としては、島田編集長と中野室長は両編集局から1名ずつメンバーをアサインしてもらおうと考えているのだから、まず候補者と直接話し、その候補者を交えて議論する、あるいは候補者が直接上司である両編集局長に相談してある程度の理解を得てから全体でミーティングを持つなどのアプローチも考えられる。

 目的は、両編集局長にできる限り気持ちよく今回の取り組みに納得してもらい、その後の協力を得られるようにすることである。そのためにどのようなアプローチが必要か、巻き込むべき人は誰かも考えて最善と思われる手法をとるべきである。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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