日本代表チームが史上最高の成績を収めたユニバーシアード・深セン大会。参加した学生選手たちはもちろんのこと、監督、コーチ、そしてわたし自身も、この大会を通じてスポーツから多くのことを学びました。
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大学生が中心となる「第26回 ユニバーシアード競技大会」が中国・深センで8月12日〜23日の日程で開催されました。日本代表選手団総勢507人の団長は体操の塚原光男さん、総監督はテニスの福井烈さん、私は選手団本部ドクターとしてチームジャパンをサポートしました。
今回の大会で日本代表選手団は金メダル23個、メダル合計87個を獲得し、史上最高の成績を収めました。東日本大震災後に初めて行われた国際総合競技大会で、「がんばれニッポン」の腕章を腕に選手たちは戦いました。競技や国際交流を通して「元気な日本」を世界に発信しました。日本の底力を世界に示すことができました。
ユニバーシアードは国際大学スポーツ連盟(FISU)が主催する全世界の学生の総合競技大会のことで、別名「学生のオリンピック」とも言われています。大会参加資格は大学生や大学院生に加え、大会前年に卒業した選手も参加が許されています。
日本のスポーツ界にとって、このユニバーシアード大会には大きく2つの意義があります。1つは「将来のオリンピック選手の強化」です。単に国際大会といっても、1つの競技種目だけでホテルに滞在するような大会と、大きな選手村が作られ、そこで生活しながら競技を行うオリンピックなどの総合競技大会ではまったく雰囲気が違います。慣れない選手村での生活、体調管理の大切さ、日の丸を背負う責任の重さなど、経験しなければ分からないものがたくさんあるのです。
ユニバーシアード大会に参加した選手の多くが将来、オリンピック選手になります。2005年のトルコ・イズミル大会では、太田雄貴選手などフェンシング男子フルーレチームが金メダルを獲得しました。2007年のタイ・バンコク大会では体操の内村航平選手が金メダル2個、合計3個のメダルを獲得しました。これらの経験が北京オリンピックでの彼らの活躍につながったことは間違いありません。
もう1つは、学生スポーツならではの「教育としてのスポーツの意義」が世界共通であることを選手たちに感じてもらうことです。いわゆる「文武両道」の精神です。ユニバーシアードに出場した選手たちが全員オリンピック選手になれるわけではありません。しかし、将来多くの選手たちが、スポーツ指導者や学校の先生などでスポーツにかかわるでしょう。また一社会人として、世界の中の日本人としてビジネスの世界で活躍することになるかもしれません。そのような若者にとって、スポーツを通じた国際貢献、平和、そしてスポーツの役割や意義を体験することは、日本にとってもかけがえのない財産になります。
ちなみにユニバーシアードの表彰式では国旗は掲揚されますが国歌は演奏されず、代わりに国際大学スポーツ連盟歌が流れます。これも、「国を超えて文武両道の精神で地球に貢献する人間になろう」ということを意味しているのでしょう。
このように教育に重きを置いた学生スポーツですから、実際の現場でも教育を感じることがたくさんあります。
今までもたくさんのスポーツ指導者の方たちと一緒にいさせていただきましたが、皆に共通しているのは、人間を育てる、すなわち陶冶の意識でスポーツ指導をしている点です。これは一人のまともな人間にならなければ強いアスリートにはなれないということでもありますし、人間教育こそがスポーツの目的であると皆が感じているからでもあります。
今回の大会でも、そんな光景をたくさん目にしました。
男子バスケットボールの最終戦、チェコとの戦いを前に陸川章監督は選手たちに言いました。合宿、海外遠征と半年以上にわたり一緒にやってきたチームとして戦う最後の試合です。
「おれたちは世界一を目指そうと頑張ってきた。世界一熱いチーム。世界一元気なチーム。世界一楽しいチーム。今日もそれを見せようじゃないか」
日本を代表するバスケットボール選手として37歳まで現役でプレイし、その後は指導者として活躍されている陸川監督、その言葉には教育者としての思いがあふれていました。
残念ながら最終戦を飾れなかった日本チームですが、試合後のロッカールームで陸川監督は言いました。
「力いっぱいやった結果だ。受け入れよう」
「このチームで一緒に戦うことできて楽しかった。この経験を次のステップにつなげてほしい」
次のステップは皆それぞれでしょう。でも、どんな道に進んでもこの経験が日本の力になるはずです。最後に陸川監督は、今日で解散するユニバーシアードチームの選手たちに、「贈る言葉」を語りました。
「才能は神からくる、謙虚であれ。名声は人間からくる、感謝せよ。自惚れは自分からくる、用心せよ」
この言葉を、それぞれの思いで聞いていた選手たち。謙虚に、感謝して、うぬぼれることなくそれぞれの道で頑張ってほしい。バスケットを続けても続けなくても、この経験が必ず日本の力になるぞ、と強く感じました。
今回もたくさんの勉強をさせていただいたユニバーシアードでした。
小松裕(こまつ ゆたか)
国立スポーツ科学センター医学研究部 副主任研究員、医学博士
1961年長野県生まれ。1986年に信州大学医学部卒業後、日本赤十字社医療センター内科研修医、東京大学第二内科医員、東京大学消化器内科 文部科学教官助手などを経て、2005年から現職。専門分野はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ行政。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授