世界の課題を解決する新たな経済システム海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/3 ページ)

» 2011年12月14日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

マイクロクレジットはいかにしてソーシャル・ビジネスに繋がるのか

 チッタゴン大学の経済学教授を務めていたユヌス氏は、1974年に起こったバングラデシュでの大飢きんを目の当たりにし、ジョブラ村を訪れました。そして、そこで天職を見つけました。ユヌス氏は悪徳金融業者からの借金の返済のためにジョブラ村の村民に27ドルを渡しました。その時、貧しい人にお金を貸すことが、新しい銀行システムの基盤になるのではないかとひらめきました。

 ユヌス氏は自身で銀行を立ち上げ、ベンガル語で「村」という意味から「グラミン」という名前を付けました。グラミン銀行は今や800万人の顧客を抱える銀行に成長しました。そして顧客の97%が女性です。貧困をなくすには男性に貸すより女性に貸した方がより効果的であることが分かっています。バングラデシュでのグラミン銀行の成功により、マイクロクレジットは米国を含む世界中に広まりました。

 ユヌス氏は、世界の金融機関が貧困を助長していると結論付けています。なぜなら、世界の金融機関は貧しい人に融資をしないからです。全ての人はクリエイティブな能力を持って生まれて来ます。しかし、貧困のせいで世界はその能力を生かし、恩恵を得ることができないのです。社会はそのシステムを作り直し、全ての人間が繁栄できるようにしなければなりません。これには「ソーシャル・ビジネス」の立ち上げが不可欠です。

 社会は2つのタイプのビジネスを世界に提供しなければなりません。それは「利潤追求型ビジネス」と「ソーシャル・ビジネス」の2つです。ソーシャル・ビジネスは、通常の商習慣に従って経営されます。また、経済的に持続可能でなければなりませんが、投資家は配当金を受け取りません。

 ソーシャル・ビジネスの目的は、社会の病気を治すことであり、富を蓄えることではないからです。収益は全て、事業の展開あるいは付随した事柄に充てられます。慈善活動に貢献する人が世界中に沢山いることから、このようなベンチャー企業への投資は十分に行われるはずです。政府が社会福祉プログラムへの資金をソーシャル・ビジネスに回すこともあり得ます。

 グラミンの名前はバングラデシュ中に広まりました。例えば、グラミン・ダノン(ヨーグルト)、グラミン・ヴェオリア(飲料水)、BASFグラミン(蚊帳)、グラミン・インテル(地方IT)、グラミン・アディダス(運動靴)、オットー・グラミン(衣料品)などです。また、グラミン・ヘルスケアは予防志向の病院を農村地区に立て、看護学校を設立しており、病院を増やすために医師を育てる、健康科学を学べる大学を創設しました。

 マイクロクレジット成長の理由……「金貸し」そのものがそのまま、社会貢献につながった例です。どこのマーケットに対してどのようにアプローチをするかが大きなポイントとなります。それはソーシャルビジネスにおいても同じことがいえるわけです。ただし、人を助けるという最も人道的作業がこのビジネスにおいて最も重要なことは間違いありません。

ソーシャル・ビジネスの定義

 ソーシャル・ビジネスには2種類あります。「タイプ1」は、投資家が企業に再投資することで、社会の病を治す事業です。「タイプ2」は、グラミン銀行のように貧しい人が所有する利潤追求型企業です。ソーシャル・ビジネスは次の7つの原則を守らなければなりません。

 「ビジネスの目的は社会の改善であり、利益を得ることではない」「企業は経済的に存続可能でなければならない」「投資家は投資した金額のみ回収する」「利益は事業拡大に使う」「企業は環境に優しくなければならない」、「従業員には市場賃金を与え、標準以上の労働条件を与える」「喜んで実行する(Do it with joy!)」というモットーが示すように、善意の気持ちを持つ」。

 ソーシャル・ビジネスは経済が成長するための極めて重要な要素です。なぜなら、ソーシャル・ビジネスは、疎外されてしまう可能性のある多くの人々に恩恵を与えることができるからです。また、人々が活気に溢れていると、経済も元気になります。ソーシャル・ビジネスは社会主義でも共産主義でもありません。資本主義に手を加えたものです。その中で人は、本来は政府が対処するべき問題を解決してくれるビジネス・ソリューションを支持することで、自分達のコミュニティーを支えます。

 また、ソーシャル・ビジネスは市場により多くの選択肢を提供し、人の創造力を活用することで革新を促し、投資資金を引き込むための事業アイディアによってのみ制限される資源供給を行います。さらに、民営化に取って代わるものを提案します。民営化とは多くの場合、個人が公共資産を奪い取ることを意味し、少数の新しい事業主だけが裕福になる仕組みなのです。

 ソーシャル・ビジネスは、利益の動機と善行の動機の両方を成り立たせようとはしません。その理由は3つあります。1つ目は、企業が貧しい人を利用して純利益を増やそうとすることは、間違ったことだからです。残念なことに、グラミン銀行のマイクロクレジットのまねをした機関の中には、法外な金利を設定するようになった所があります。これはマイクロクレジットの最初の意図を無視する行為です。

 2つ目は、企業が利益と社会的支援のどちらかを選ばなければならない時、常に利益が選ばれるからです。利益から遠ざかることで、「ソーシャル・ビジネスは人を助けている」と経営者は明示することができるのです。3つ目は、ソーシャル・ビジネスを独立した試みとして考えると、似たような独創的な手法が促されるからです。

 例えば、マイクロクレジットの必要性を呼び掛ける中、グラミン銀行は地方の貧困に影響を与える問題点に気が付きました。その対策として、グラミン銀行は「生涯に渡る誓い(16の決意)」を作り、ローンの借り手に守らせています。それには、より良い食生活を送り続けることや、個人のごみ処理を改善することなどが含まれています。

 ソーシャルビジネスとは経済の成長のための一つの重要な要素であることがここでも書かれています。経済を動かすものが「ヒト、モノ、カネ」であるならば、それらの循環を正常に保つことがその大きな役割といえるでしょう。さらに利益を追求し、経済を活性化させていくビジネスがあるとするわけですから、社会を営む上で、ソーシャルビジネスは必要不可欠なものと言えるでしょう。

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