グラミン銀行が初めて手掛けたソーシャル・ビジネスが、グラミン・ダノンです。バングラデシュのボグラにあるグラミン・ダノンのヨーグルト工場は、2005年、ユヌス氏とパリを拠点とするダノングループのフランク・リブーCEOとの話し合いから生まれました。このビジネスは最初から、人気のあるヨーグルトを作ることで50%が栄養失調であるバングラデシュの子ども達により高い栄養を提供することを目的としていました。
ダノンとグラミンの専門家は、バイオガス発電とソーラーパネルで電気を部分的に賄う、小規模な工場を建てました。試作を重ね、ヨーグルトの材料には地元で採取されるナツメヤシの実の糖蜜を使うことにしました。また、グラミンの畜産業者により牛乳の供給も安定しました。このヨーグルトは「ショクティ・ドイ(「エナジー・ヨーグルト」の意)」と名付けられ、元気なライオンのマスコットの絵がパッケージに描かれています。当時のヨーグルトの市場価格は1個30セントでしたが、2007年2月に発売を開始した時のショクティ・ドイの価格はそれを下回る1個7セントでした。
ショクティ・ドイへの最初の反応は好ましいものでしたが、ボグラの限られたお店と地方での宅配でしか手に入らないため、売上は工場を維持するには不十分であり、期待された栄養の改善を達成することも難しい状態になりました。問題は、戸別訪問が文化規範に背くものであるため、女性販売員が宅配を嫌ったことにありました。
そこで、グラミン・ダノンは現地管理者を正規雇用し、採用プロセスを徹底的に管理させました。それにより、1人当たりの平均売上が2007年9月には29個だった販売個数が、2008年の3月には270個に伸びました。その後6カ月以上売上は順調に伸び、最も使用頻度の高い分野の中での市場浸透率は40%から50%に上がりました。
しかし、2006年に始まった世界的食糧価格の高騰により新たな問題が浮上しました。牛乳の価格は倍になり、それにより2008年3月にはヨーグルト1個ごとに赤字を出すようになってしまい、企業の存続が危ぶまれました。2008年4月には、役員は1個の値段を最高で11セントまで上げることに同意しましたが、売上は80%下落し、販売力は消えてしまいました。そこでグラミン・ダノンは、栄養価はそのままで(子どもの一日当たりの最低必要量の30%)、サイズを60グラムに小さくし、8セントで売り出すことにしました。これは、地方の市場が耐えることのできる値上げでした。
グラミン・ダノンは、バングラデシュの首都、ダッカに展開しました。ダッカでは、80グラムのヨーグルトを16セントで販売することは妥当だと思われていました。グラミン・ダノンは、冷蔵保管ができる流通センターと冷蔵庫を載せたトラックに投資をしました。また、2層のビジネスモデルを考案し、地方と都会の両方の顧客を取り込みました。
2010年には、商品名を「ショクティ・プラス(「エナジー・プラス」の意)」に変え、総販売数の40%をダッカの住民が占めるようになりました。一方地方では、販売力は安定し、サイズを小さくし価格を安くしたことから、女性販売員は月に約11ドルを稼ぐようになりました。この経験は、ソーシャル・ビジネス固有の問題を浮き彫りにしました。この経験から学べる有益な教えは「目的に集中し、柔軟性を持つこと」です。つまり、市場をよく理解し、協力できる相手と手を組み、その市場固有のチャンスを見抜き、さらに定期的に自分の考え方を見直すことが重要なのです。
ここでの事例は、典型的なことでしょう。食品という人間が生きていくために欠かせない商品でその地域の人の健康維持に貢献し、雇用を確立させ経済を活性化させました。ともあれ、いろいろな問題を柔軟にクリアしてきたことが勝因であったことは間違いありません。それは通常のビジネスと何ら変わらないことなのではないでしょうか?
差し迫った世界的問題が山積みであることから、新しいソーシャル・ビジネスの起業家は自分の得意分野から始めるべきです。そうすることで、今持っているリソースを活用して慣れた問題に対処することができるからです。小規模事業を地元から始め、明確な目的を持ち、成功するために何度でも試みを行う準備を整えて下さい。
グラミンのソーシャル・ビジネスによって、1つの総合ビジネスでは貧困や医療不足などの重要な問題を改善する事はできないことが示されています。バングラデシュで導かれた答えは、数多くのソーシャル・ビジネスを立ち上げ、それらが一体となって貧困層の健康を改善することで、問題の一部(汚染水、栄養失調、靴の不足、看護師不足)に取り組むことです。
例えば、芸術関係を扱う起業家は、娯楽プログラムで停滞した文化を変えることができますし、エンジニアは廃棄物熱源転換システムを作ることができます。また、野外活動家は植林活動の手助けができますし、銀行家は外国人労働者の家族への送金を手伝うこができます。
ソーシャル・ビジネスとして成り立つ良いアイディアを見つけるには、子どもや高齢者、ホームレスの人や精神障害者などの ニーズについて考え、彼らの生活の向上に繋がる構想を考えて下さい。例えば、職人のための市場を見つけたり、起業家の卵を育成したりすることなどが挙げられます。構想をテストし、実行可能なビジネスに成り得るか見極めて下さい。営利目的の企業が持つ収入を得るためのスキルを学んで下さい。あるいは、所有権を直接、あるいは代理人を介して貧困者に移譲することで、利潤追求型ビジネスをソーシャル・ビジネスに変えることもできます。
ソーシャル・ビジネスを始めるには、営利目的の企業を立ち上げる際に行う準備と似たような準備を整える必要があります。まず、ビジネスプランを考えて下さい。そして市場分析や費用、損益分岐点に関する通常の質問以外の問いかけをして下さい。それには「誰を助けようとしているのか?」、「成果をどのように測定するのか?」、「もっとできるか?」などが挙げられます。
今、世界中には克服するべき多くの問題を抱えています。もし、今からソーシャルビジネスに参入するなら自らの持つ資源を生かせと言及しています。 ここではどんな分野がどうようにして活動ができるのかその一部が記載されていますが、これは大きなヒントになると思います。もちろん、開始するからには綿密な行動計画を立てそれに準じた形で進めていくことが大切でしょう。
著者紹介
ムハマド・ユヌス氏は、グラミン銀行を設立し、2006年ノーベル平和賞を受賞しました。
経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授