銀行間の取引が縮小すると、銀行の取る行動は決まっている。資金調達が苦しくなれば、当然、新しい融資を抑え、返済の督促を行う。「貸し渋り」と「貸しはがし」である。とりわけ貿易は甚大な影響を受ける。銀行が支払いを保証しなければ、貿易を実行できなくなるからだ。こうして実体経済は細っていく。
このような事態になったら、打つ手はほとんど残っていない。緊急緊縮政策を発表し、とにかく歳出を減らすから、あまり高くない金利で国債を発行させて欲しいと訴えるしかない。中央銀行が国債を引き受けるという非常手段もないわけではない。実際、欧州ではECB(欧州中央銀行)がイタリアやスペインなどの国債を買い支えた。もっともこれは国債流通市場の話で、国債を直接的に引き受けたということではない。もっと無制限に買い入れたらどうかという提案に対し、ECBは中央銀行の信用に関わる問題であり、もし市場から信用されなくなったらその代償はあまりにも大きいと強硬に反対した。
追い込まれてから財政再建をしようとすると、当然、歳出カットは大幅にならざるをえない。例えば日本の場合、2012年度予算での政策経費は71兆円であり、そのうち税収で賄えるのは40兆円強にすぎない。極端な話、税収で賄えるだけにすると言ったら30兆円の歳出カットが必要だ。国家公務員の人件費を例えゼロにしても5兆円しか減らないことを考えれば、財政再建がいかに大変か、実感できるかもしれない。
政府は、財政をいかに時間をかけて再建するかという道筋を早く示さなければならないのだが、野田政権がやっていることは増税のロードマップを描くことだけだ。例えば社会保障でも、民主党は負担が増える部分は先送りすることにしてしまった。税収増と歳出カットを一体的に進めないと、これだけ巨額の債務を抱えてしまったのだから、二進も三進も行かないはずなのに、それができない。
ひょっとすると政治家は、経済成長とかインフレとかに期待をかけているのかもしれない。確かにインフレは国家の債務負担を軽くする。経済成長率が上がって税収が増えれば、借金する額を減らせるわけで、その分は負担が軽くなる。しかし残念ながら、生産年齢人口が減り、老齢化率が高くなる日本は、潜在成長力も小さくなっている。しかも需要に対して供給に余裕があるため、デフレからもなかなか脱却できない。「他力本願」でも、肝心の他力がなければ望みはかなわない。
残された時間は少ない。ギリシャにはドイツやフランスなどユーロ圏が手を貸してくれたが、日本にはそうしたパートナーはいないのである。
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授