今や4年でビジネスモデルが変わるといわれているネット業界で、軽やかにモデルを変えチャレンジし続ける秘訣は。
インターネットビジネスはそのスピード感が他のビジネスと異なります。「ポータルが世界を制したと思ったら、検索ビジネスがそれを覆し、さらにソーシャルメディアがそれにとって変わろうという昨今、10年ごとにビジネスが覆りますよね」と独り言を放つと、いや4年でしょうと訂正されました。今日の対談は、VOYAGE GROUPの代表取締役CEOである宇佐美進典さんです。同じインターネット業界にある仲間として、どんな舵取りが会社を永続的に成長させられるかを議論したく、ECナビから変貌を遂げたVOYAGE GROUPの今とこれからを聞きました。
「ビジョンのない会社」。インタビュー半ばに、この言葉が宇佐美さんの口から漏れたとき、わたしはかなりあぜんとしました。驚いたというより、まさにわが意を得たりだったからです。日本ではビジョンの定義が曖昧で、ともするとある一定期間のうちに実現するべく目標のように思われていることが多いのですが、本来ビジョンというのはミッションという会社が定める目標を定量的ではなく、どうやって達成するかという行動目標のようなものだとわたしは解釈しています。
ネットイヤーグループでも現在ビジョンを変更中ですが、わたしはこれを未来永劫変わらない行動目標として定めています。しかし、これが難しい。インターネット企業にとって、未来永劫変わらない行動目標とは?ということで、あっさりそれを捨て去ったのが、VOYAGE GROUPなのです。むしろ、捨てることが目標だったといえます。そんなやり方があったのか、という思いでした。
VOYAGE GROUPの前身は、さかのぼればアクシブドットコムで、1999年に懸賞サイトとしてスタートしています。2004年に価格比較サイトの「ECナビ」をスタート。2005年には社名をECナビに変更し、リサーチ事業やポイント交換サービスの「PeX」を会社化しています。2011年に事業ドメインを事業開発とし、VOYAGE GROUPと再度社名を変更しました。インターネット企業にこのように社名変更が多いのは、インターネットを取り巻く環境が短時間のうちに激変することが要因のひとつかもしれません。今回の社名変更は会社の意志そのものです。
ECナビは、価格比較サイトとして名をはせました。こうした情報サイトの絶対価値は今も変わりませんが、メディアの数が増えるにしたがって相対的価値が下がるのは否めない事実でしょう。宇佐美さんは、ECナビのメディアの価値を認めながらも、同社を事業開発会社に変貌させようとしました。順調に新しいビジネスが開発され、今ではECナビが全体に占める割合は4割以下になっています。社名変更は、新しいサービスを社外から認知されるために必要だったのです。
今、VOYAGE GROPUの事業は、大きく分けて、ECナビを中心としたメディアビジネスとアドテクノロジープラットフォームがあります。メディアビジネスはPCだけでなく、携帯やスマーとフォンを含むECナビと前述のリサーチパネルやPeXなど。そして、新しく事業として開発され同社を牽引するのがアドテクノロジープラットフォームです。
アドテクノロジーに関しては、業界以外の人には難解な言葉が並ぶ事業なので、宇佐美さんに分かりやすい解説をお願いしました。アドテクノロジープラットフォームとは、端的にいうと、米国で発達したインターネット広告の自動ビッデングシステムです。SSP(Sell-side Platform)とDSP(Demand-side Platform)があり、Sellサイドとは、広告枠を売る側、つまりメディア側に立ったプラットフォームで、Demandサイドとは、広告を出稿したい側、つまり広告主側のプラットフォームで、広告主にとって最適なインプレッション購入を手助けするツールです。米国ではこれらが乱立していて、カオスマップのようになっていますが、日本の場合は、米国より遅れて数年ですから、広告主が少ないとか単価が低いというだけでなく、カオスになる条件があまりない状態といえます。
日本においても自動ビッディングシステムは技術的に可能だったものの、代理店側に既存広告ビジネスとのカニバリがあったり、広告主もすすんで手を上げる環境ではなかったために、新システムへの移行は遅れました。今の日本では、主にインターネット広告を取り扱うサイバー・コミュニケーションズ(CCI)やデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)などは大手総合代理店の傘下にあるため、メディアサイドのSSPが強く、ネット代理店は広告主側のDSPが強いという大まかなすみ分けはありますが、DACもプラットフォームワンという主力DSPを持つなど、マスメディアと比べ全体が広告主側に寄っているのが現状です。
しかし、その中で、VOYAGE GROUPは、自社でメディアを持っていたこともあり、最もパブリッシャーよりの位置づけです。SSPとして、ECナビのプラットフォームを使いながらアドネットワークと協業し数を増やすという戦略です。もちろん、自社メディアを使うといっても他社メディアの取り扱い数のほうが多く、パブリッシャーの数は1000社以上に及びます。規模としても、個人サイトから大手メディアまで、また、デバイスやメディアの形態も、PCからスマートフォンネイティブアプリまでさまざまです。
実際に、オークションの形でビッディングが行われているかというと、今まさに始まったところなのですが、この半年で業界は、リアルタイムビッディングにガラッと変わっていくと宇佐美さんは見ています。
業界の中にDSP、SSPの主要プラットフォームはそれぞれ10社ほどあり、近い将来、産業が成長すればするほど競争状態も強くなり、結果として退却もありえます。そこで、どんな戦略で勝ちに行こうかと、宇佐美さんは考えます。競争に勝つことは、SSPとして、パブリッシャーにとって価値が出せるかどうかと同義です。技術力は時間差の問題なので差別化にはならないと考える宇佐美さんは、一つ目の解を、コンサルティング能力に求めています。
何をどこに出すのかを人と技術の共同作業で行うのです。人の問題は、採用力に掛かっていて、ここにはVOYAGE GROUPは自信を持っています。2つ目は、商品力です。これは、自社ネットワークをどこのアドネットワークとつなげるか、広告単価の高い広告を持てるか、オリジナルの広告在庫をどう持つかの3点で達成ができます。オーディエンスターゲティングのDBをバックで構築し、リターゲティングできるサービスをつくることで、通常の広告単価より高いSSPが可能になると考えています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授