「イノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、常にシンプルな方法を模索する」という“Invent and Simplify”(創造しシンプルにする)、「お客様にとって重要でないことにはお金を使わない」という“Frugality”(倹約)、「信念を持ち、賛成できない場合には敬意をもって異議を唱える」“Have Backbone; Disagree and Commit”(信念を持ち、意義を唱えるが、決定がなされたら全面的にコミットして取り組む)など、具体的でシンプルな項目が並ぶ。社員は、これらが書かれたカードを身につけて常に参照しているだけでなく、採用や研修、評価などもこの信条に基づいて行われているという。
「採用の際には、アマゾンとしてどんなリーダーシップを求めているのか、このプリンシプルに照らし合わせながら対象者の行動をチェックしていく。入社してからの研修も、このプリンシプルを行動にどう反映するかを中心にプログラムを組んでいるし、毎年行われる評価も、これらの項目に沿って行っている。こうして社員一人ひとりの理解を深め、文化として浸透させている。昨年から新卒採用を始めたが彼らにもプリンシプルに従った行動を心掛け、将来アマゾンを支えるリーダーになってほしいと思っている」(チャン氏)
「ビジネス環境の変化が激しい」といわれる昨今だが、社員に求められるものは創業以来変わっていないし、今後も変わらないだろうとチャン氏は言う。「時代が変わったからといって、“利便性が高く、低価格で、品揃えが豊富”という、お客さまが私たちに求める価値が変わることはないし、これは世界中どこに行っても同じだ。こうした価値を追求するというアマゾンの戦略が変わることはないし、変わる必要もない」(チャン氏)。
アマゾンの考え方は非常にシンプルで揺らぎない。
チャン氏は、アマゾンを「プラクティカル(現実的・実用的)な会社」と表現する。
多くのグローバル企業が成長の踊り場に差し掛かった市場では、本社からのガバナンス重視に傾く。アマゾンの場合は、米国発のビジネスという印象は強いものの、携帯電話サイト向けのサービス「Amazonモバイル」や、注文当日に商品を配送する「当日お急ぎ便」など、米国に何年も先駆けて日本独自で開始したサービスも多い。新しいサービスを日本先行で開始する際も、本社と現地で摩擦が生じることはないという。
「単に、米国ではまだニーズが育っていなかったサービスが日本ではニーズがあった、というだけ。さまざまなニーズの中で優先順位を付けて開発を行うという、普通のプロセスで進めた」(チャン氏)
確かに、携帯電話によるネットのサービスは、欧米に比べて日本で大幅に先行して普及し、ネットショッピングのニーズも高まった。また、「当日お急ぎ便」は、商圏が特定の都市に集中し、宅配便などの輸送網が発達した日本だからこそ可能なサービスだろう。
一方、日本ではまだ、米国ほどに普及していないのが電子書籍だが機は熟してきたようだ。米国で火付け役ともなった、アマゾンの電子書籍サービス「Kindle(キンドル)」について、チャン氏は、「Kindleは、世界中どこでも、60秒以内で電子書籍をダウンロードして読み始めることができることを目指している。今年の4月中旬に5年ぶりに来日した創業者兼CEOのジェフ・ベゾス氏が、「日本で今年お知らせできることを楽しみにしていてください」と明言した。わたしも楽しみにしていると話す。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授