OJTを制度化して専任の担当者を付けると、周囲が育成に無関心になり、成長支援に関わらなくなってしまうのだ。
OJT担当者以外の社員が「専任のOJT担当者がいるのであれば、自分たちが口を出す必要もあるまい」と感じて、若手の育成に関与しなくなる。もっとも先輩社員たちも若手そのものには興味はある。「どういう人が入ってきたのだろう」「どんな新人かな」と気にもなる。しかし、「OJT担当者がいるのに、脇から手出ししては悪いかな」「OJT担当者の考えもあるだろうから、自分があれこれ口出ししたら考えに反するかもしれないし」などと遠慮して、周囲が育成に関わらなくなる。これを私は「善意の無関心」と呼んでいる。
善意の無関心状態が周囲に生まれると、OJT担当者は孤軍奮闘せざるを得なくなり、非常にストレスフルな状況に陥る。それだけではない。若手もOJT担当者以外の指導を受けられなくなり、学べることが限られてしまう。
周囲の先輩たちが若手育成に関与することでもたらされるメリットは大きい。若手社員は、多様な考えを聞いたり、さまざまな体験が出来たり、先輩それぞれの得意分野を習うことが出来たりする。たった一人の教えを受けるよりも、たくさんの人に指導を受けた方が多くの刺激を受けられ、彼らのためになる。
中には理不尽なことを言う先輩がいるかもしれない。細かいことを指摘する人もいるかもしれない。先輩によって言うことが違うと若手が混乱することもあるだろう。
でも、混乱するのがかわいそうだからとOJT担当者一人の指導に絞り込むのはどうかと思う。なぜならば、「色んな人が色んなことを言う」のが社会だからだ。大勢の中でもまれながら育つ方が、早くから多様性に慣れることにもつながるはずだ。
もし、先輩ごとに異なる指導をすることで育成の支援がうまく機能しない懸念があるのならば、大勢が関わるのをやめるのではなく、関わる大勢で「育成のための基本方針」だけそろえるようにすればよい。
例えば、OJT担当者が「分からないことは、まず自分で調べさせたい。調べても分からなかった質問にだけ答えてあげよう」と考えていたとする。
ところが、先輩社員には後輩にとても優しい人もいる。若手が泣きついてきたら、「自分で調べたかどうか」を確認せず、手取り足取り丁寧に優しく教えてしまうケースもある。これが繰り返されると、若手は親切な先輩にすぐ質問しにいくようになり、自分で調べる癖をつけさせたいOJT担当者の思いが実現しなくなる。
そういう心配があるのならば、職場全体で「基本方針は“まずは自分で調べさせること”。質問してきても、最初に“自分で調べてみた?”と確認し、まだ調べていなければ教えない。調べても分からないときに初めて教える」といったルールを決めておけばよい。そういう大枠の方針だけ決め全員で共有しておけば、人によって指導の仕方が大きく異なるという事態は免れるだろう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授