人間が成長期に必要だった栄養がある年齢を超えると、余計な体脂肪となって蓄積されていく。会社も成長期を超えるとそれまで資産だったものが負債になっていく。成功体験を捨てることができずに、組織の老化は着々と進んでいくのだ。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」のバックナンバーへ。
会社は年月を経るにつれて、肥大化するとともに会議やルールが増え、業務の非効率な側面が大きくなっていきます。こうしたいわば「会社の老化」はなぜ起きるのか? どうすればそれに対策ができるのかを組織のメカニズムを解明することで説明していきます。
皆さんの会社では以下のようなことが起こっていないでしょうか?
これらの症状は、業界によらずある程度の歴史と規模を持った会社であればほぼ例外なく当てはまる事象です。これらの事象によって組織は非付加価値業務に労力を割き、新しい価値を生み出していく活力がそがれていきます。しかもこうした現象は一度起こり始めたら、基本的に自然に進行して行くことはあっても、よほどの覚悟を持って取り組まない限り、時計の向きを逆にして後戻りさせることは容易なことではありません。
こうした現象はある意味であらゆる組織が持っている「宿命」とも言えます。それは、人間が営む組織が本質的に持っている「不可逆性」、つまり一方通行で後戻りができないという性質によります。
世の中にはこうした「不可逆性」がさまざまなところで見られます。
これらの共通点は、一方向には自然に起きるが、逆方向はそれなりの覚悟と外からの力を使わない限り自然には起こりません。
組織にもこうした不可逆性がさまざまなところで潜んでいるために、全体としても不可逆なものになるのです。組織の不可逆性には大きく物理的な不可逆性と心理的な不可逆性があります。
物理的不可逆性というのは、人間以外のすべての物理的現象が持っている不可逆性のことで、先述の例でいえば、「石は丸くなる」とか「混ざったものは分離できない」といったことです。部屋が自然には片付かないというのも広い意味で言えばこの物理的な不可逆性ということになるでしょう。この他にもものごとは複雑化し、平均化するというのがこの物理的な不可逆性によるもので、組織が複雑になり、平均的な人材が多くなっていくというのが会社での具体的な現象としてあてはまります。
もう一つの重要な側面は人間が本質的に持っている心理的な不可逆性です。それは「一度得たものは手放せない」とか「増やすのは簡単でも減らすのは難しい」、あるいは「楽な方向に流れる」といったことです。例えば先述の会議やルールはほぼ一方通行に増えていくというのはこうした心理的不可逆性に従って起こります。
これらに加えて老化現象を加速するのが「資産の負債化」という組織が持つ構造的な問題です。ルールが増えるというのは必ずしも悪いことばかりではありません。ベンチャー企業が成長して「ちゃんとした」会社になるためには「組織立った」運営が必要になります。組織立ったとは必要なルールが整備されていることであり、それは会社の成長期には必須のものです。
ところがそれはあるポイントを超えると、組織が硬直的になるとか非効率になるといった負の要素の方が大きくなっていきます。これが資産の負債化です。人間でも成長期に必要だった栄養の摂取がある年齢を超えると、余計な体脂肪となって蓄積されていくように、会社でも成長期を超えるとそれまで資産だったものが負債になっていくことがさまざまな側面で現れるにも関わらず、それに気づく人はあまりいません。
それはそれまで築いてきた成功体験を捨てることが難しいからです。こうして組織の老化は着々と水面下で進行していくことになります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授