自分の部署は何のために存在しているのか。存在している目的を具体的に答えられるだろうか。メンバーと一緒に考えてみてほしい。
「管理職試験の際に、そのように実施したからです」
ケーススタディーのグループ討議で、自らの意志を持たずに無難な落とし所に持っていき、調整のみをしているマネジャーに対して「なぜ、そうするのですか?」と問うた時の答えが冒頭のせりふである。
第1回の連載で、自分がマネジメントをする組織をどうしていきたいのかという自らの意志を持たないと、外部の変化に自分がコントロールされてしまう。そうなると、終わりの無い忙しさが続き、どんどん疲弊していくという点について述べた。一方で、忙しさや上記のケースのような管理職としての役割に固執して、自分の意志を明確にしていないマネジャーも実際は多い。
では、プレイングマネジャーとして、変化の激しい時代に対応するために、自分がマネジメントする組織をどうしていきたいのか、意志となるビジョンをどのように掲げたらよいか。
「ある国にたくさんの消防署があります。その中で最も優秀な消防署を1つ決める必要があります。どのような消防署を一番に選びますか」例え話だが、皆さんならばどのように答えるだろうか。
電話が鳴ると必ず10分以内に駆けつけているA消防署、どんな火災であっても30分以内に火を消すことができるB消防署、最新鋭の消防車を保持しているC消防署、など考える論点はさまざまである。だが、その話の中で結果的に一番優秀だと決まった消防署は、「その消防署のエリアにおいて、ほとんど火事が起こらなかった消防署」だ。
消防署が火を消すことが仕事だと思っている人は多いし、もちろんその通りである。しかし、「何のために自分たちは存在しているのだろうか」「周りの人々はどのような状態になるとHappyなのか」と考えたときに、「そもそも火事が起こらない状態を作る」というビジョンがあり得るということだ。
そのビジョンにもとづくと、どのような行動を日々とるようになるか。
日本的に言うと"火の用心"のような活動や、放火などが起こらないような環境整備などの活動を実施することになる。そうすると、一時的に仕事は増えるのだが、結果的に火事がどんどん減っていく。その結果、市民は火事が無くなりHappy、自分たちも消火活動の時間が減ることで仕事が楽になりHappy、その上で一番優秀だと認定もされる。良いことばかりの状態になっていくのだ。
さまざまな企業において"火を消す"というようなことだけが仕事だと思い、日々没頭している人は多い。忙しいがために、「自分は仕事をしている」という気になり、現状から抜け出せないスパイラルに入っている人もいる。しかし、そのような中で、いったん立ち止まり方向性であるビジョンを掲げられるか。そして、そのビジョンとは、ただ方向性を示すのではなく、「そもそも火事が起こらない状態を作る」というような目的をとらえ、多くの人により良い状態をもたらすものが望ましい。では、そのようなビジョンを作り上げるためにはどのようにすれば良いか。また、何がそのようなビジョンを作ることを妨げているのか。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授