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» 2014年01月10日 09時55分 公開

海外進出企業に学ぶこれからの戦い方:持てる力を現地で立証することで先進国市場を攻略 日立鉄道事業 (2/2)

[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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 第2のポイントは、体制の現地化である。英国の鉄道業界は、民営化により国鉄が車両運行、インフラ運営、車両リースに分割され、日本よりもステークホルダーが多く、意思決定のメカニズムも複雑であった。日立は、進出当初は日本から派遣した数名の駐在員と日本にいる人材で体制を組んでいたようだが、その限界を痛感して現地化に舵を切ったのだと思われる。

 2002年に、マネージャーとして英国の国防宇宙企業であるBAEシステムズ、鉄道事業での競合であるアルストムに在籍したアリステア・ドーマー氏を採用した。そして、ドーマー氏に現地人の採用など多くの権限を委譲(※注)し、現地を深く理解するメンバーでの体制作りを進めた。その結果、公式・非公式のさまざまな場において、複雑に入り組むステークホルダーからの情報を適切に吸い上げることが可能となった。そして、ドーマー氏を中心として日本メンバーとのOne Team化を図り、互いに補完し合いながらビジネスを推進して成功につなげていったのである。

(※注)出典:2013年7月 東洋経済オンライン

グローバル競争に活用できる新たなビジネスモデルへの進化

 このような取り組みを通じて結果へとつなげた日立の鉄道事業だが、「今後のグローバル競争で通用する新たなビジネスモデルにビジネスを進化させた」ことも非常に意義が大きいといえる。日本では、車両メーカーは鉄道会社に車両を納入し、その保守は鉄道会社が行っているが、英国では保守も含めた対応が求められた。そこで、日立は現地に保守会社を設立し、車両の納入から保守までを一括で行うビジネスを受注している。車両の品質が高ければ、当然保守事業の利益率は高くなり、長期的に安定するビジネスを構築できる。また、この取り組みは日立の現地への長期的なコミットメントを示す事にもつながり、市場でのプレゼンスを高めることにもなる。

 このビジネスモデルは、日立が昨年6月にベトナムで受注したビジネスにも生かされている。更に、IEP案件では、車両リース会社Agility Trains社をSPVとして設立して対応し、フィナンシャルモデルも含めたビジネスを展開している。このビジネスモデルの進化は、車両ばかりでなく、保守や信号システム、鉄道運行システムまで含めた全方位的なビジネスの提案を可能にする。日立は、このようなチャレンジを強大なグローバルプレーヤーが占有する先進国市場で行い、結果に結びつけたのである。その意義は、今後の日立鉄道事業の展開に非常に大きな意味を持つであろう。

 今回考察した日立鉄道事業の取り組みは、多くの企業にとって参考になるのではないだろうか。先進国市場を視る目、市場でのプレゼンスを創るための持てる力の立証、市場への洞察力と浸透力を高めるための体制作り、そして世界で戦うためのビジネスモデルの進化、扱う製品やサービスが違っても生かすことができる考え方が含まれている。また、日立の功績としては、政府も大きな役割を果たすインフラビジネスで結果を出したことにある。上下水道、交通、電力など、日本には高い技術力を持ったインフラ関連の企業が多数存在する。日立の取り組みを参考にし、優れた日本の技術力を持って是非世界市場にそのプレゼンスを高めていってもらいたい。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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