次に、そもそもデータがないのが材料や道具の壁である。工藤氏は、「データがあると思っていても、実際には使えないデータであることも多い」と話す。穴だらけのデータであったり、不正確なデータが入り混じっているケースなどだ。この場合、データの補てんやクレンジング作業が必要になる。実際分析プロジェクトの多くではこうした地道な作業に多くの時間を費やしている。そして、ようやくデータが出揃ったと思っても、現場の課題解決に合わせて最適なアクションプランに結びつくような処理方法に結び付けられない、という問題もある。調理方法理解の壁と呼んでいるものである。
どれだけ高度な演算処理を知っていても意味がない。「データ活用によって課題を解決したい」というそもそものビジネスゴールに沿った提案に落とし込めない分析担当者は、この「調理方法理解の壁」にぶち当たっているといえるだろう。「アルゴリズムを競い合っているわけではなく、ビジネス成果をゴールにしている。そのことを常に念頭におかねばならないのです」と工藤氏は語る。
そこで重要なのが、繰り返しになるが、ビジネス上の目的やスコープなどの定義。工藤氏の表現でいうところの「発射台・標的の設定」。データ分析プロジェクトは一般的に、「発射台・標的の設定」「データ解析」「分析PDCAの高度化」という3つのステップで進め、様々な人がかかわりながら推進されるが、発射台・標的の設定はその最初のステップ。ロケットでいうと、積む燃料の量や発射する確度により、到達地点が変化することを意味する。ここをきっちり固め、関係者間で握っておくことが、その後のプロジェクトの成功につながるのである。
続けて工藤氏は、「デザイン思考」と企業の枠を越えて知恵を集結する「オープンイノベーション」の重要性についても語った。
デジタルネイティブ時代のアプリケーション開発では、理詰めで考えるよりは、直感的に誰でも分かるアプリケーションをデザインしていく必要がある。例えばモバイル開発では、デザイン思考をベースにプロトタイプを作成し、UX(ユーザーエクスペリエンス)設計アプローチを実践する。工藤氏は、「ユーザー視点での徹底的な業務分析と、モバイル対応を熟知したコンサルタントおよびデザイナーの共同作業によりデジタル化を推進することで、業務革新を実現できる」と話す。アクセンチュアでも、この分野でのお客さま支援を強化するためにUXスタジオを設立した。
また、何もかも一社完結で進めるのではなく、オープンイノベーションを活用し、社内外の幅広いリソースから技術や知見、アイデア、時にはデータを出し合えるようなエコシステムを創る必要がある。1人のコンサルタントが机に向かって延々と検討するよりもよほど素晴らしいものができるだろう。社内に必要なリソースやアセットがないケースにおいて、場合によっては、買ってしまうこともある。Googleは、30ドル程度の人工知能を搭載したラーニングサーモスタットを開発したベンチャー企業であるNest labsを32億ドルで買収した。工藤氏は、「Googleは、デバイスに価値を見いだしてNest labsを買収したのではなく、デバイスが収集するデータに価値を見いだしてNest Labsを買収したのである」と話す。
最後に工藤氏はリーダシップの重要性について話した。「データ解析プロジェクトの推進においては、越えなければならない壁が多くあるが、ここで重要になってくるのはリーダーシップだ」。分析の技術や知見を持った人は社外から調達することはできるが、社内においてビジネスとデータ活用の橋渡しを行い、関係者をひとつのゴールに向かってまとめあげ、推進するリーダシップの存在はいかなるケースにおいても不可欠なのだという。「力強い推進力を持つとともに、リーダは“Being Humble(謙虚になること)”も重要。“過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望をもつ。大切なことは、なにも疑問を持たない状態に陥らないことである”というアインシュタインの言葉はデータ解析のアプローチの本質を突いている」
「同じく“失敗しない人は成功もしない”というアインシュタインの言葉があるが、“失敗してはいけない”という上司のもとでは、データ解析プロジェクトは成功しない。失敗しても良いから、新しいものを追い続ける姿勢を身につけ、デジタルで社会を変えてほしいと思っている」と工藤氏は講演を終えた。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授