ブランドイメージの再構築に向けさまざまな取り組みを行い、訪問販売事業の建て直しのため、事業形態を覆すまでの変革を行った。巨大組織を成功に導いたマネジメントとは。
ポーラ・オルビスホールディングス鈴木郷史社長が2000年にポーラの社長に就任(※現在は会長)後、店舗展開が進められている「ポーラ ザ ビューティ」に象徴されるように、ブランドイメージの再構築に向けさまざまな取り組みを行ってきた。訪問販売事業の建て直しのための改革を推し進め、事業形態を覆すまでの変革を成功させてきた鈴木氏。地殻変動のような時代の変化の流れの中、委託販売契約を結んでいる全国のポーラレディを含めた巨大組織を変革に導いたマネジメントとはどのようなものだったのだろうか。
中土井:「ポーラ」は今や女性にとって定番の化粧品ブランドです。創業してから現在までのヒストリーや、鈴木さんが社長に就任してからの取組みについてお聞かせください。
鈴木:ポーラの創業は1929年で、化粧品会社の中でも比較的歴史の長い会社です。私の祖父が手作りで化粧品を製造し、「自らつくり、説明しながら販売するのが良い」という想いから、訪問販売のスタイルで事業を始めました。1937年には初めてのセールスレディが誕生し、女性の社会進出とともにその数はどんどん増えていきました。
その後、訪問販売の商材として化粧品だけでなく、ジュエリー、ランジェリーなどあらゆるものを取り扱うようになりましたが、時代の流れとともに訪問販売自体の先行きが厳しいものでしたから、不動産事業、食品事業などにも事業拡大を進めていた状況でした。
関連会社のポーラ化成工業の社長を経て、私がポーラの社長に就任したのは2000年です。化成の社長時代から、ポーラの社長になったら何をするべきかを自分なりにシュミレーションし、TO DO LISTを作っていました。それを一言でいえば、選択と集中です。事業が多様化しすぎていたからです。社長になってからは、不動産事業で保有しているビルなどを手放し、食品事業の会社は売却。原点回帰し、化粧品中心の会社に建て直しをはじめました。
中土井:鈴木さんの手腕によって、大きな改革を次々と成し遂げてきたからこそ、今の業態のポーラがあるんですね。どのようにして訪問販売から現在の誘客型のモデルに進化されたのですか。
鈴木:私は、2000年に社長に就任したとき「カウンセリングファースト」という言葉で、これからの訪問販売のあるべき姿を示しました。社長に就任してすぐに開かれた全国のポーラレディが集まる表彰式では、その式典に参加した3500人ものポーラレディに向かって「あなたは、お客さまからいただいている販売手数料の分だけ、価値を提供できていると思いますか?」と問いました。当時、本社の人間が販売代理店に対してそういった問いかけをするのはタブー視されていましたが、あえて問うたのは、販売の質を上げることが当時の会社に必要だと感じていたからです。
具体的な取組みとしては、エステを営業所に導入し、お客さま一人ひとりの肌分析を行うアペックスを販売の中心に据えました。訪問販売を大きく変える取組みでしたので、中には辞めていくポーラレディもいました。毎年約200拠点の営業所が閉鎖していく状態が数年間続き、売り上げも毎年4〜5%ダウンしました。
それでも、10年レンジで見たら、絶対にこの選択が正しいという確信を持って行った改革でした。これまでのやり方が明らかに衰退へと向かっており、企業の悪しき文化を生み出しているにもかかわらず、その状況を的確にとらえられないせいで変革を起こす思考にスイッチが入らない。そんな会社は多いのではないでしょうか。目の前で起こっていることがどんな意味を成しているのか、また本来どうあるべきかを概念化して捉えることができなければ、変革のための思考スイッチは入らないと思います。
中土井:鈴木さんが社長に就任される前のポーラではどのような取組みが主になされていたのですか。
鈴木:アマチュアでもいいから、とにかくセールスレディの数を増やすことに注力していました。ポーラレディの数が増えれば、お客さまが増え、売上が上がるという荒っぽい考えが社内を覆っていたのです。
私が社長に就任して5年目の2005年、「カウンセリングファースト」というコンセプトを礎にして、最終的にたどり着いたのが「ポーラ ザ ビューティ」というお店です。現在は全国に約620店舗構え、全体の売上げの約40%を占めています。出店について、全面的に本社が協力し、出店に必要な費用を本社の側で賄う形で、多額の投資をしてきました。委託販売契約を結んでいるポーラレディは、ポーラの社員ではありません。それにもかかわらず、彼女たちが活躍する場所を本社が提供するという積極的な協力姿勢を示すことによって、信頼関係をより強固にすることができました。その後に続く改革も、その信頼関係があったからこそ、彼女たちの協力が得られたのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授