ダイナミックさと、細部への配慮でポーラを改革――リアルなひとりの人間として行動することが組織を変える気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2015年03月18日 08時00分 公開
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組織上の立場を越えて、リアルな一人の自分として行動してほしい

鈴木氏(左)と聞き手の中土井氏(右)

中土井:鈴木さんは的確に状況を把握し、戦略を練って実行する聡明さを持っているとお見受けします。しかし、冷静な戦略家というだけではなく、人の心を動かす、人の心に触れるという点についても秀でているからこそ大改革を成し遂げることができたように感じられます。

鈴木:本音で物事に向き合い、取組むためには、組織上の立場を越えることが必要だと思います。

 会社に所属しているということは、お客さまがいて、上司がいて、取引先がいる。そういう関係性の中での自分の存在というのではなく、家族、友人、地域社会、地球という世界の中での自分として、会社の中でも行動をしてくださいといつも社員に伝えています。

 組織上の役職を離れて、リアルなひとりの人間としての言動を求めているんです。

 私がポーラの社長になり、就任挨拶をした夜、11人の営業支店長が私の宿泊しているホテルの部屋に尋ねてきてくれました。その11人は本社政策に先んじて、エステを戦略的に取り入れるなど、自分たちの販売の仕方を確立していて、実績をあげていた方々でした。

 しかし、当時の本社の販売政策は彼女らとは違うわけですから、本社からのサポートを受けられずにいました。普通の感覚なら苦情を言ってくるところですが、彼らは自分事として会社の将来をものすごく心配してくれていたのです。会社の将来を真剣に考えているからこそ、本社に対する「苦情」ではなく、「心配」になったんですね。これはまさに「立場を越えた」話です。こういう支店長と一緒に仕事をしたり、共に喜びを分かち合いたいと心から思いました。

中土井:立場を越えて引っ張っていく人が現れるからこそ、全体を動かす力につながるのかもしれませんね。

鈴木:「全体最適を考えた施策を打つべきだ」という意見を社内でもよく耳にしますが、私は「部分の最適を徹底的に追及もしないで、何が全体最適だ」とあえて反論します。全体最適はもちろん、大切ですが、部分の最適を徹底的に追求できる力があってこそ、全体最適は可能になっていくと思います。改革はそうして生まれていくと思います。あらゆるところで小さくても新しい成功が生まれ、積み重なっていく組織にしていきたいですね。

中土井:鈴木さんには、革新的なことを進める力だけではなく、細やかな部分を見る力もある。全体のダイナミックさと、細部への配慮という一見両立が難しいものを両立されているように感じられます。鈴木さんが細部にも配慮される中に、どのような真理を見ているのですか。

鈴木:人は最初から俯瞰して全体を見て定義しているわけではありません。人の感受性は細部によって動かされるんです。ですから、細部におけるクオリティはすごく大事にしますし、細部からの直感を信じたいと考えています。

 参謀役を見出す方法は、あらゆる局面を経て、その人のリアルなパーソナリティを知ること

中土井:鈴木さんは改革をいくつも成し遂げていますが、何がそうした改革の実現を下支えしていたのでしょうか?

鈴木:2002年から新創業としてスタートし、その後の6年間でいろいろな改革を進めました。しかし、もちろん私ひとりで成し遂げたわけではありません。私のすぐそばで動いてくれる参謀役がいたんです。だからこそ成し遂げられた改革です。彼ら彼女らは私と同じレベルで会社の未来に対して危機意識を持っている人間でした。

中土井:社内に優秀な人がいても、参謀として見出すことは簡単ではないのではないでしょうか。

鈴木:私は社長になる前、たまたまその参謀役の一人と仕事をする機会がありました。その時に、「この人だったら改革を推し進める力になってくれるかもしれない」とピンときたのがきっかけです。社内で仕事ができると評判の人でも、いざ普段とは違う環境の慣れない海外へ行ったりすると、全く活躍できないことは往々にしてあります。その点、彼はどこへいっても物怖じせず、同じスタイルでいられる人でした。英語が話せるわけでもないのに、外国人とのやりとりができたりもする。

 そうやって、あらゆる局面を一緒に過ごすことによって、その人のリアルなパーソナリティが見えてくるのだと思います。

中土井:最後に、鈴木さんにとって組織マネジメントとは何ですか。

鈴木:組織とかマネジメントとか言っているうちは、その本質から遠い気がします。役職なんて関係なく、みんながひとりの人間として交われたらいいと思う。役職はただの一時的な看板みたいなもので実態がないのです。リアルなその人の持つパーソナリティは、たとえば、家族と一緒にいるときに現れると思うんです。役職にはまり込みすぎてしまうと、リアルな自分ではしないような判断を平気でしてしまい、大事なことを見落としてしまいます。ポーラ・オルビスグループという会社は、誰もが本音で関わり、変わることを恐れない組織にしたいと考えています。

対談を終えて

訪問販売員として活動していたポーラレディをカウンセラーに、カウンセラーからエステティシャンに、と彼らの華麗なる進化を鈴木社長は実現してきました。この進化を可能にするには、訪問販売から店舗を拠点にした誘客型のビジネスモデルに転換するという大仕事がありました。そうした課題を乗り越えるために、鈴木社長は自ら旗振り役となって、それまでパソコンを触ったこともないセールスレディにパソコンを配布したり、販社制度を廃止したりとさまざまな施策を推進してきたそうです。そうした大胆な改革をいくつも成し遂げてきた鈴木社長が、とても高い洞察力と戦略性を兼ね備えているのは、誰であっても一目瞭然に分かるのではないかと思います。「お客さま、上司、取引先」といった『役割』に依存した考え方で人を捉えていては、人の心を動かすことはできません。「自分、家族、地域社会」といった『一人の人間』としてのつながりの中にあってこそ、人の心に触れることができるという鈴木社長の哲学は、単なる戦略性だけでは到達できない経営手腕のように思えてなりません。「組織とかマネジメントとか言っているうちは、その本質からは遠い」という言葉は、とても重く心に響きました。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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