アリストテレス流リーダーシップ論哲学ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

リーダーとして出世をひたすら追求すべきなのか、どのような時も嘘をついてはいけないのか、趣味は持つべきかどうか、冗談好きと堅物のどちらがいいのか。アリストテレスの人生哲学から答えることができるという。

» 2015年08月13日 08時00分 公開
[小林正弥ITmedia]
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アレクサンドロス大王を育てた哲学者から学ぶリーダー論

アリストテレスの人生相談

 筆者は「アリストテレスの人生相談」(講談社)という本を刊行した。アリストテレスは、万学の祖と言われる哲学者だから、彼から人生について学ぶことなどできないと思う人もいるかもしれない。でも、彼は「ニコマコス倫理学」という書物によって、西洋では「聖書」に並ぶような人生哲学を展開している。特に幸福論に関しては、今でも、これを超える人生哲学は現れていないといっても過言ではない。

 彼は、マケドニアの王子だったアレクサンドロス大王の家庭教師を務めたことでも知られている。アレクサンドロスの世界帝国はアリストテレスの政治哲学を実行したものとは言えないが、大王の英邁な精神に哲学者の智恵が感化を与えたと想像することは可能だ。世界最高の英雄的政治家の1人に、アリストテレスが知的薫陶を与えたかもしれないと夢想することは、哲学とリーダーとの関係を考える上での一興だろう。

組織のミッションを実現する「善きリーダー」になるためには?

 アリストテレス哲学では「善きリーダー」はどのように考えられるだろうか? 彼の哲学は世界や人生の目的から考えることを重視する。だから、「善きリーダー」とは、組織の本来の目的を理性的に把握して、そこから考える人であり、つまりは、組織のミッションや使命を自覚してその実現を可能にする人である。

 それでは、そのためにはどうすればいいだろうか? 以下では、次のような問いを簡単に考えてみよう。

  • リーダーが、挫折を乗り越え、運命の転変を逃れて成功するためにはどうすればいいのか?
  • 家族や部下との人間関係をどのようにすれば、いいのか? 部下の相談にはどのように答えればいいのか?
  • リーダーはどのように心を統御し、どのように振る舞えばいいのか?
  • リーダーは知恵をどのように身につければいいのか?
  • リーダーとは孤独なものなのか? 
  • リーダーが目指すべき究極的の理想はどのようなものか?

運命の転変や挫折を乗り越える方法――持続的な幸福の道

 リーダーといえども、世の中の流れや個々人の運命の変転から逃れることは難しい。例えば景気がいい時は利益をあげるのは容易でも、ひとたび不況になると利益を維持するのは難しい。個々人にとっても、心理的にも肉体的にも好不調の波がある。だから、世の中では易や占いがはやるのである。

 アリストテレスは宗教的な考え方を否定はしないが、運命の波に流されずに乗り越えていく方法として、その人が魂の美徳を発展させることを重視する。バブルの崩壊による経営破綻を避けるためには、賢慮、節制などの美徳が重要である。優れた資質を総合的に発展させれば、逆境を乗り切って持続的に幸福な人生を生きることができるというのである。

 また、いかに優れたリーダーでも、挫折や失敗を経験することがある。その時にどのように乗り越えられるだろうか。自分の弱点を反省して、楽観主義や希望や勇気の美徳に基づいてチャレンジを再開することが大事である。

中庸というバランス感覚――「ほどほど」以上の美徳

 リーダーは何かの能力に優れているから、ガムシャラに働いて成功しようとすることも多い。けれども、そのようなやり方だけでは、長期的に成功を続けることは難しい。部下との関係や、家族関係がうまくいかなくなったり、体を壊すことになったりする危険もある。

 だから、中庸というバランス感覚が必要である。例えば、モーレツ社員として仕事に熱中するあまり、部下に仕事を強要したり、家庭が崩壊してしまえば、人間関係も仕事もうまくいかなくなってしまうだろう。まさに仕事と生活のバランスを取るのが中庸の道である。

 ただ、中庸とは単に2つの真ん中という意味ではないし、「ほどほど」というだけではない。例えば、会社が危機にある時にはリーダーは一時的には家庭を顧みずに危機の克服に全力を注がなければならないだろう。ある時には、一見、片寄っているように見えても、それが中庸の道ということがあるのだ。

だから、中庸は、個々人の状況などのTPOによって異なってくるので、それを見つけること自体に知恵の美徳が必要なのである。これは難しいことだから、アリストテレスはそれを容易にする方法も親切に説明してくれている。

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