アリストテレス流リーダーシップ論哲学ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2015年08月13日 08時00分 公開
[小林正弥ITmedia]
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心のコントロールと、振る舞いのマナー

 リーダーとなって部下を多く持つようになると、部下の弱点や欠陥が目につき、つい大声で怒鳴ったりすることもあるだろう。有能で仕事に熱心な人ほど、部下にも厳しくなりがちだ。逆に、本当に問題があるのに怒れないようなリーダーでは、その部署は発展できない。

 だから、心をコントロールして温厚の美徳を身につけることが必要である。織田信長や項羽のように激しく怒りすぎることも、逆に怒らなさすぎることもよくはなく、状況に応じて適切に怒ることが中庸なのである。

 また、リーダーとなればお金の扱い方や振る舞い方を洗練させる必要がある。一見ささいなことと思われがちでも、付き合い方や、品位のあるマナーを身につけることは、卓越した人生や社会には重要なのである。

 アリストテレスをお堅い哲学者と思っている人は驚くかもしれないが、彼はこういったお金の増やし方や使い方、名誉心、そしてマナーについても詳しく述べている。出世をひたすら追求すべきなのか、どのような時も嘘をついてはいけないのか、趣味は持つべきかどうか、冗談好きと堅物のどちらがいいのか?――こういった問題も、彼の人生哲学から答えることができるのである。

賢慮と友

 リーダーたる者に最も必要なのは、賢慮、つまり実践的な知恵に他ならない。賢慮とはどのような知であり、どのように身につけることができるのだろうか? 

 それは、自然科学のような知とは異なって学校や読書だけでは身につけることはできず、現場で経験を通じて初めて身につけていくことができる。その知恵は、専門的なスペシャリストの知とは異なって、物事を全体的に判断するジェネラリストの知恵でもある。

 部下の指導にも賢慮が必要になる。例えば、部下が仕事で行き詰っていたり、さらには転職するかどうか悩んでいたりする時に、どうアドバイスするか? この時には、その人の状況と資質を見極めて適性を判断した上で対処することが必要になるだろう。

 また、責任の重いリーダーになればなるほど、人は孤独になりがちである。どのような友人を、どのくらい持つべきか? どのようにすれば、信頼できる友を得ることができるだろうか? 彼は、真の善き友を少数持つことが大事であり、そのためには自分自身が善き人になることが必要だ、と考えるのである。

 この実践的な知恵と友情や愛はアリストテレスの人生哲学の要である。さらに、知の究極を彼は「観照」という言葉で表し、理論的な英知を得ることが人間の最高の幸福だと考えている。そのような理想を目指しながら、世の多くのエグゼクティブが、中庸、賢慮、友情をはじめとする美徳を会得して、組織のミッションを実現する「善きリーダー」となっていくことを願いたい。

著者プロフィール:小林正弥(こばやし まさや)

千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、慶応義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、日本ポジティブサイコロジー医学会理事

1963年生まれ。東京大学法学部助手を経て、2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。

1995〜97年、ケンブリッジ大学社会政治学部客員研究員。公共哲学・コミュニタリアニズムの研究を通じ、ハーバード大学のマイケル・サンデル氏と交流をもち、NHK教育テレビ「ハーバード白熱教室」で解説者を務める。

著書に『サンデルの政治哲学…<正義>とは何か』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」』(講談社+α新書)ほか多数。


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