デザイン思考とは既存のビジネスモデルを超えた、新たなユーザー価値を創り出すための創造的問題解決をする営みだ。マネージャーは効率だけではなく、遊びを許すことも必要になる。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
まず、この記事を読んでいる皆さまは、「デザイン思考」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 「聞いたことはある。なんか、バズワードだよね、でも実際のところそれで何ができるのか分からない」。そういう印象を持っている方が多いのではないかと思います。
私は、元々P&Gでブランドマネージャーとしてブランドマネジメントに携わった後、アメリカシカゴの老舗デザインスクール、イリノイ工科大学でデザイン思考メソッドの修士を経て、ソニーのデザイン部門でデザイン思考を活用したイノベーションを生む組織作りに携わってきました。
並行してビジネスとデザインの交差点というブログを運営し、ビジネスパーソンとデザインの世界がいかに融合するかをテーマにしてきました。その中で、所属企業を超えてさまざまな方から相談を受ける機会が多かったのですが、特にこの1年ほどは、組織や、自分のチームの環境を「今までの業務の範囲を超えた新たな取り組みが自発的に生まれる体制」をいかに作るか、という相談がとても増えています。
いわゆるイノベーション力で有名な大企業はもちろんのこと、今までイノベーションとは縁遠そうに思える中小企業や、老舗企業、政府系の企業にまで及んでいるのが興味深いところです。
時あたかも、2015年9月、アメリカ版のHarvard Business Reviewのテーマは、「デザイン思考の進化/The evolution of design thinking?単なる商品開発のためだけではなく、経営者が戦略をデザインし、変化をマネジメントするためのもの」という言葉が大きく表紙になっています。この文脈の中で、デザイン思考を経営戦略や、組織マネジメントとして捉える動きがIBMや、GEなどの大手企業を中心に進んでいるのです。つまり、海外でも同じような方向を向いた動きが起こっているのです。
一体何が起こっているのでしょうか?
ひとつには、インターネットによる業界構造の変化が、IT業界を超えて、あらゆる業種に及び、その中で収益構造を壊す新たなイノベーションが求められているという変化への要請があるでしょう。
同時に、数年前と比べても、デザイン思考、システム思考、リーンスタートアップなど、新たな価値を生むための方法論というテクノロジーが民主化して広く共有されるようになりました。課題意識の高いリーダークラスを中心に、現場を見ていて発想した、本当にユーザーにとって「意義のある企画」を何とかして形にしたい。そういう自然な気持ちを持つ人が増え、広がってきているという環境も大きいように感じます。
マネージャークラス、現場、双方ともイノベーションを生むためのアクションを起こし始めているのです。これは素晴らしいことですが、実際にはちょっとしたすれ違いで、うまく組織として噛み合っていないケースが多く見られます。デザイン思考を使ってイノベーションを起こしやすい組織を運営していく上で、現場とマネージャーの役割が明確に定義されていないからです。
デザイン思考をいかに現場で実践するかをテーマにした「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」という本を8月に上梓しました。事業会社のマーケ、デザインの現場にいた立場からの課題意識として、デザイン思考に関する多くのツールが紹介される中で、ビジネス現場で実践するために本当に大事なことが伝わっていないのではと思ったからです。
デザイン思考というのは、既存のビジネスモデルを超えた、新たなユーザー価値を創り出すために、ユーザーの生活や感情、つまり現場に寄り添い、自分たちなりのユニークな視点で課題を発見し、プロトタイプを作りながら検証していく創造的問題解決をする営みです。
それを、現場で実現していく上で、本書では、以下の4つの要素を紹介しました。
詳しい内容は、本書に譲りますが、大まかにいうと、1と2は、現場のチームが主導して活用できるノウハウ、そして、マネージャーの役割は、3と4のチーム編成や、通常の業務とは違うプロセスの支援、そして、ツールや物理的な場作りの支援という、環境作りになります。
環境を作っていく上で、優秀なマネージャーほどはまりやすい罠があります。それは、既存事業で行っている効率性を重視する「仕事の早い人」のマインドセットのまま、新規領域を創り出すデザイン思考を活用した取り組みをマネジメントしてしまうことです。
既存事業は、効率的に資源を配分して、儲けを出すことがゴールになります。それに対して、新規の企画は、多産多死で100に3つ成功すればよいもの。むしろ、効率性よりは遊びを許し、一見無駄に思える実験を増やす環境を作ることがゴールになります。この実現に不可欠なのが、「失敗に寛容であること」。既存の資源を効率的に管理する考え方だと、失敗は無駄なもの、という判断になります。しかし、この思想のままにデザイン思考という方法論を実践してもまずうまくいきません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授