新機軸のプロジェクトを実際に運営するマネージャーが、作り出すべき「失敗に寛容である空気」。これを作り出すために、マネージャーとして以下のようなことができるのではないかと思います。
1つ目はまず、既存のチームの中で、現状の業務とは必ずしも直結しない企画や、短期的にはインパクトが出ないかもしれないアイデア創りを許可することです。例えば、3Mの20%ルールのように、業務の一部に自由度を与えることができればよいですが、そこまでしなくても、「業務に関係しないこと」も、ちゃんと業務をやっている限り許可すると明言するだけでも、「きっとダメにちがいない」という萎縮効果で起こっていなかったアイデアが出てくる余地を作り出します。
2つ目に、デザイン思考は特に、お客さまやその分野のエキスパートなど現場を見て、そこで起こっていることを多角的に判断した上で、新たな切り口で課題を発見し、ユーザー目線で最適な体験を作ることです。そのためには、日常業務の中で外部の人と会ったり、店舗を観察にいったりすることが気軽にできる風土を作ることが重要です。一定の割合の時間は、マネージャーの許可なしで市場調査を行ったり、外部の人と接する上で開示しても問題ない情報であれば、オープンにする環境を作ることも重要です。
3つ目に、新機軸の取り組みをする際には、企画や、デザイン、エンジニアなど、できるだけ部署を超えたチームを編成することです。今までと違うメンバーと働く環境は、必然的に前例主義が通用しなくなります。必然的に新たなチャレンジをする気運を高めやすくなります。人の選定は、どのような考え方でプロジェクトを進めるかという観点で強力なメッセージになります。この部分は特にマネージャーしかできない領域なので、一番力が問われます。
デザイン思考は、共通の課題を見つけたのち解決策のプロトタイプを創り出す際に、ユーザー目線の体験の構想を担うデザイナー的な人、商品やサービスの設計を実現するエンジニア的な人、そして、持続的に広がるビジネスモデルを構築するビジネスマン的な人が必要です。特に、構想の絵を具体的に可視化できるデザイナーや、プロトタイプを手を動かして作れるエンジニアを入れておくことで一気に実現性が高まります。
上記のような環境が用意された中でデザイン思考は、現場のメンバーが市場を理解し、今までの経験を超えた新たなアイデアを発想し、カタチにしていくスピードを大きく早めるという意味で、とても強力な武器になります。
デザイン思考は、とてもパワフルな現場の武器ですが、あなたのチームに眠る潜在的なアイデアを信じ、それをカタチにしやすくする環境を整えてあげられるか。これが、デザイン思考をマネージャーとして活用し、成果を出すために求められています。
最後に、デザイン思考をひとつのプロジェクトとして実施するのみではなく、組織風土改革として組織全体で数十人の単位で取り入れるケースも増えてきています。これは、ユーザー目線の発想がチームや組織に流れ出し、ちょっとしたタイミングで、今まで会社の内部に向かっていた発想も、ユーザーにとって価値がある方向に自然に寄っていくようになります。仮に、短期でホームラン的なアイデアが出なかったとしても、じわじわとユーザー目線を大事にし、現場の感覚に寄り添って行動する組織文化の醸成という効果が生まれるのは、デザイン思考を組織的に取り入れることの大きな意義ではないでしょうか。
デザイン思考をうまく使って、常に新たなアイデアが生まれやすい環境が日本のあちこちに生まれる、弊書がそんな未来の一助となればと思っています。
biotope(株)代表取締役社長兼チーフイノベーションプロデューサー
イリノイ工科大学デザイン学科修士課程(Master of Design Methods)修了。東京大学法学部卒業後、P&G 入社。ファブリーズ、レノアを手がけ、ジレットのブランドマネージャーをつとめた。(株)ヒューマンバリューを経て、ソニー(株)デザインセンターにて全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、独立。
新規事業を生む仕組み作りや文化醸成などのイノベーション組織デザインや、特に技術シーズを基にした商品やサービス開発、ブランドのリデザインプロジェクトを得意としている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授