すべてのイノベーションに共通するのはその発端が人にあるということ。では、いったいどのような人がイノベーターなのか探ってみよう。
第1回で、イノベーションを「経済成果をもたらす革新」と定義しました。それは、世界の人々の生活が根本から変わるような大変革もあれば、日常の仕事にあるカイゼンや工夫なども含まれます。そんなすべてのイノベーションに共通するのは、その発端が人にあるということです。では、いったいどのような人がイノベーターなのでしょうか?
イノベーションは、「ヨソ者」、「バカ者」、「若者」が起こします。まずヨソ者をイメージしてみましょう。
組織の中で常識にどっぷりと浸かっているいわゆる組織人は、自らが置かれている立場、役割、日常業務、目標、評価基準等から抜け出すことは難しい。そう、しがらみにまみれているのです。
ヨソ者は、その点では大胆かつ無責任になれます。無責任とは聞き捨てならないですが、既存事業の責任に拘泥されるとイノベーションは覚束ない。ヨソ者はある程度無責任でいられます。既存事業と一定の距離をおくことができるのです。
また、ヨソ者が故に、組織での成功体験を積んでいない。このこともイノベーション創出には有利に働きます。成功体験は人を縛ります。成功が続くとどうしても次の行動に影響を及ぼしてしまうのです。ヨソ者は飄々とそんな壁を乗り越えていきます。
バカ者とは、知識が足りないとか、理解の度合いが足りない、ということではありません。何かに熱中するあまり、他への配慮が等閑になっている人や、不器用ながらもひとつの道を曲げずに歩き続ける人のイメージに近い。
ひとつのテーマや技術に没入するあまり、何か修行僧のような雰囲気を醸しだす人が、皆さんの会社にもいませんか?こだわればこだわるほど、組織の中での不器用さが際立ち、変に浮いている人。彼らがバカ者です。バカ者はイノベーターとしての大きな可能性を秘めています。
日本企業では、社員のバカさ加減が表出していないケースが圧倒的に多い。仕事と、自分の本当にやりたいことは明確に峻別して、職場では組織人としての人格しか敢えて表出させていない人もいるでしょう。隠れたバカ者こそが、イノベーション創出の軸となります。
若者は、自社の事業を推進するためのさまざまな基準やシステム、暗黙のルールなどに染まっていない人、勤務経験日数が少ない人です。若ければ柔軟な発想ができ、企業の制約から離れることができそうです。経験を積んでいない分だけ、新鮮なものの見方や考え方ができます。
皆さんの職場に新卒の新入社員が配属され、しばらくして、新人から「どうしてこのやり方なのですか?」とか、「なぜ、他の方法を試さないのですか?」といった意見を唐突にもらい、ドキっとしたことはありませんか?
一般的に人は自分が働く企業での経験年数が短ければ短いほど、仕事の進め方や稟議などの組織の作法に拘泥されません。若い感性は、組織にとってイノベーションを起こす触媒になり得ます。物理的かつ精神的な若者を生かすことが必要なのです。
若者ヨソ者バカ者は、出世街道まっしぐらのエリート社員ではありません。傍流のハグレ者であり、組織の中枢にとっていわば鼻つまみ者ともいえるでしょう。エリート社員は会社の常識にのっとって、既存事業を徹底して推進している人が多い。組織や事業の論理を崩すことがイノベーションを起こす前提でもあるので、エリート社員はイノベーションを起こせません。
定期的に新卒採用をしている企業では、物理的な若者は随時いるといっていいでしょう。近年は中途採用を積極的に行っている会社が増えていますが、そこにはヨソ者がいます。バカ者はどうでしょう? 「あいつは典型的なバカ者だなぁ」と何人かが思い浮かぶのではないでしょうか?
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授