みなさんの働く組織では、ビジョンの問題があるか、ないか? その診断をしながら読むと、仕事で役立つだろう。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
イノベーションの進展とともに、今まであった業務を人口知能やロボットが代替可能な時代に入った。その結果、これからの未来は、人間ならではの多種多様なものの見方、考え方の衆智を結集して、新しい組織の「働き甲斐」を創造できる時代へと向かっている。
著者は、経営コンサルタントとして「新しい組織開発」の支援をするようになって25年の歳月が経った。組織開発(Organization Development`以下、ODと表記)とは、組織文化を変革する働きかけである。そのコンサルティング支援に人生の大半を賭けてきた。2016年より、その研究成果を社会へと役立てるべく多摩大学 経営情報学部の客員教授に就任して「ビジョン・マネジメント論」を開講した。その実践の中で、トップリーダーから、次の相談を受けることが多くなってきた。
―新しい「ビジョン経営」を目指したい! ―という相談である。
この時、不思議とトップリーダーが、共通して語る言葉がある。それは、何か。―なぜ、経営ビジョンは、浸透しないのか? ―その深き問いだ。
これまで、大企業から中小企業まで、さまざまな業種、リーダーとの出会いから組織文化の変革と創造に、3万時間以上のプロセスコンサルティングの累積経験を積んだ。その援助を通して、著者は、日本の組織で起こる「10のビジョン問題」を発見した。
本稿では、そのビジョン問題を提起する。働く企業で、ビジョン経営を実践する時に「創る」「語る」「行う」の3つのステージで、組織開発の展開を捉えてみると、どのプロセスで、どのような問題が起こるのか、その「壁」が見えてくる。読者の働く組織では、ビジョンの問題があるか、ないか? その診断をしながら読むと、仕事で役立つだろう。
まず、ビジョンを創るステージでは、第1の問題である「策定の壁」が浮かび上がる。これは、ビジョンを創ることが目的になってしまい、それを行う人が不在のまま形だけのビジョンを創ってしまっている壁である。この策定プロセスの何が問題なのか? ビジョンを実践するリーダーが、心を込めて決断していない。その問題だ。
これが、第2の問題である「確信の壁」へと連鎖する。心を込めない。行う人が見えない。その中で、出てきたビジョンを成し遂げたいと腹から思っていない。これが、ビジョンの達成を信じることができない「確信の壁」だ。この「策定の壁」と「確信の壁」を越えられないまま、第3の問題である「伝達の壁」へ突き当たる。当事者でない人がビジョンを創り、語り、行動させようとする。このビジョンの伝達に問題があることに気づいていない。「伝達の壁」の問題だ。では、創るステージの「策定の壁」「確信の壁」「伝達の壁」の3つの壁を越えることができずに、ビジョンを語るステージへ入ってしまうと何が起こるのか?
事業部門のリーダーが、ビジョンを憶えていないという「記憶の壁」になる第4の問題が起こる。リーダーが、経営ビジョンを自分の頭で記憶していなければ、仕事にはつながらない。自分で、ビジョンを仕事へ変えていないのだ。つまり、第5の問題である「仕事の壁」は、リーダー自身が生み出している「壁」ということになる。これらの拒む壁で、第1〜5の「問題の連鎖」が起こることで、ビジョンが仕事につながらないのだ。この問題の連鎖は、目に見えにくいので要注意である。
では、これらの「壁」が乗り越えられないまま、ビジョンという言葉だけが躍ることになれば、結果、どうなるのか? 社員である部下にとって最も関心の高いことは、ビジョンと評価は、どうつながっているのかになり、そこだけを見てしまうのだ。結局、かけ声だけ、形式のビジョン運動で、行う人の評価は、具体的になされていない状況になる。承認の曖昧な組織からは、挑戦する行動は、生み出せない。魅力あるビジョンを生き生きと語れず、行う人も少なく、評価もされない。この組織の映り方は、そのまま社員の脳裏に残り、挑戦する行動を止めてしまうのだ。
この「行動止め」が、第6の問題「挑戦の壁」だ。さらに、行うステージに入った時、多くの日本企業では、ビジョンを、仕事の「意思決定の基準」へ変えることができていない。読者の企業組織では、どうだろうか? この決定プロセスに第7の問題「基準の壁」がある。そして「挑戦の壁」「基準の壁」を越えられないまま、第8の問題「援助の壁」の前に立ち、その「壁」に気づけず、目の前の仕事に追われる状態になっていないだろうか。
「私ひとりが言っても、どうせ誰も助けてくれない」と思い込んでしまい、上司や働く同僚との「つながり」が薄くなっている壁である。ビジョンを「基準にしない」「承認しない」「助けない」という「壁の問題連鎖」が、経営ビジョンを従業員へ届かなくさせているのだ。さらに、ビジョンを行うステージで最も必要になる「結果の総括」が組織的に行われていない。その第9の問題「反省の壁」が浮上するのである。
部下には、PDCAを回せと指示しているが、上司自身、組織全体でのPDCAのCができていないというのが「反省の壁」なのである。ここで、問題を整理しておこう。
これらの壁の連鎖が、ビジョンが浸透しない全体の問題群を浮かび上がらせるのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授