古くから日本企業で好まれてきた「何も言わずに察しろ」というのは、現代の企業環境では成立し難い。これからは、自分の思いや考えていることを言語化するスキルが必要になる。
前回、良き人脈を構築するための重要なスキルとして、言語化について話しました。
古くから日本企業で好まれてきた「何も言わずに察しろ」というのは、現代の企業環境では成立し難い。あなたが言葉で話して想いを説明することなしに、察することを相手に求めるのは不可能です。察してもらうことを是とするコミュニケーションの担保となっているのは、長時間近くに居て多くの場面を共有することでした。はっきり言えば、今までの男性主体の働き方がこの種のコミュニケーションのあり方の後ろ盾となっていました。
企業目標という同じ方向性の元で、朝から終業後の飲み会まで1日のほとんどの時間をある決まったコミュニティで共有する。そうなると、必然的にお互いの心の持ち方や、体の動き方を常に学習していることになります。ですから、察しろと周囲に要求することはあながち無理なことではありませんでした。
しかし、働き方の多様化が求められるようになった現在では、察することを常に求めるのは無理があります。ここで重要となるのが自分の思いや考えていることを言語化するという一手間であり、上手に表現するスキルです。
もちろん、読者のあなたが、「皆がその動向を固唾を呑んで見守っているような人」であったならば、ひょっとしたら言語化、非言語化いずれのコミュニケーションスキルは必要がないのかもしれません。それこそ周りがすべて察してくれますから。しかしそのような人は非常に稀です。
では何をどうやって言語化すればいいのでしょうか。単に口数が多ければいいのでしょうか。確かに、言葉が豊富というのは悪いことではありません。おし黙っているくせに「察しろ」というよりは、何らかの言葉になっているほうがいい。しかし、マシンガン・トークが必ずしも有用とは限りません。本質を語れないのであればあまり意味をなしません。うるさいだけです。大事なことは、的確に状況を把握してその本質を言語で伝えることです。
思い出して下さい。人脈の構築にとって大事なことは、お互いが相手のことを信頼し、双方向の情報交換があることでした。お互いに本質的な情報を届けあうことが最も大切な行為なのです。
本質をついたことを話すためには、きちんとした環境分析がなされている必要があります。環境分析を正確にするには、観察力が必須です。観察力無しには、良い人脈は作れません。そして、観察力は磨けば誰でもある程度までは高めることができるのです。
MBA学生が修士論文に着手する際に、観察することの重要さをくどいぐらいに私は説きます。眺めているのと意識を持って観察していることは違うと言われ続けると、学生はうんざりした顔をします。しかし、観察することなしに良い論文は書けません。いや、人脈構築のみならず、リーダーシップをはじめとするすべてのマネジメント能力を形成する根幹にあるものは、観察力だと私は思っています。
観察者が相手に興味を持つ。そして、なぜこの人はこんなことをしたのだろうか、なぜこの発言をするのだろうと、仮説的に検討しながら観察することによって、今まで見えなかった情景が現れてきます。この作業は同時に、自分が持つ状況や相手への評価が、現況に適応しているのかという確認をしていることにもなります。
観察力を磨くことは、今この瞬間から可能です。もしも、読者のあなたがオフィスでこの画面を眺めているのならば、早速近くの同僚に興味を持って、観察を始めてください。当該の同僚はどうして機嫌が良いのか。同僚の行っている案件はどうなっているのか。苦しいはずなのに笑っていられるのは、実は懐が深い人物なのかもしれない、または単に鈍感なのか。様々な角度から考察するのです。好悪の情を捨てて純粋に観察し、考察するのです。興味を持って観察することで、恐らくただ見ているだけの人よりは多くの情報を得ることができます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授