――DOWAホールディングスから藤田観光に移った経緯をうかがいたい。
2011年に、藤田観光で内部統制も含めた会計システムの見直しが必要になり、経理とシステムのサポートで移籍することになった。2014年にシステム専任になったことから、IT業界の話を聞くようになって、見える景色が変わったと思っている。
これまでのシステム開発では、機器を調達し、システムを構築して、5年間運用しながら減価償却を行い、償却終了後もしばらく使い続け、その後またシステム改修のための投資を検討する必要があった。すなわち、どれだけ投資を回収できるのかを常に計算し、償却のタイミングによって見かけのIT費用が大きく変動し、その結果必要な投資判断が遅れることもあった。
しかし現在では、システムをサービスとして利用するという選択肢もある。藤田観光でも、「作る」(投資し所有する)システムから、「使う」(サービスとして利用する)システムへのシフトを進めてきた。これにより、償却期間の終了により年度の損益に影響を与える割合が減り、柔軟で素早い意思決定が可能になっている。
――今後、目指すシステム部門のとはどのようなものか。
システム部門である前に、良きユーザー部門であることだと思っている。現在、エンタープライズ向けとコンシューマ向けのアプリケーションを比べると、圧倒的にコンシューマ向けの方が便利である。そこでコンシューマ向けで便利なものをよく知っている人がシステム部門にいた方が良いと思っている。
会社だといやでも使わなければならないが、家庭だといやなら使わない。これまでは仕事なら使いにくくても許されていたものが、今後は許されなくなる。使いやすさにこだわり、失敗したらすぐに改善していくことが大事である。その意味でも良いユーザーであるべきだと思っている。それでないと競争に勝ち抜けない。
――Apple WatchをしているCIOは珍しい(笑い)。ご自身が新しいものが好きなことが、藤田観光の改革を加速させていると思う。
IT分野に限らず、とにかく新しいものが好きで、プライベートでは本やCDなど、さまざまな「新しいモノ」をコレクションしている(笑)。
――次の世代に期待することは。
いま最も期待しているのは、今後不足するといわれているセキュリティ担当者を目指してほしいということ。人工知能(AI)でできることもあるのだが、ちゃんとセキュリティの勉強をするべきだと考えている。
日本の場合、学生が最新のITを学んでいないことが多く、社会人になって初めて覚えることが多い。AIがやることと、人間がやることは違うので、とにかく勉強してほしい。それでなければ、どんどん日本が弱体化してしまう気がしている。
インタビュー中にもあるように、藁科氏は観光業とは全く異なる企業を経験し、しかもITとは異なる職種を経て、現在のCIOを担当されているというユニークなキャリアをお持ちである。(実は、もともとは体育の先生になりたかったが、学生時代に大きな怪我をして断念したというお話もお聞きした)
観光業という業種がら、外部の人間はともすれば華やかな側面にスポットを当てがちになるが、藁科氏のビジネスとIT部門の将来を見据える視点はやはり異なる。ビジネスや企業の現実にシッカリと根ざし、しかし柔軟に改革を実行しようとする氏の姿勢が印象的なインタビューであった。
重富 俊二 (Shunji Shigetomi)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。
ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。
早稲田大学工学修士(経営工学)卒業
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【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授