憲法の「改正」について考えることは、「本質そのものを追究すること」
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2017年5月3日の憲法記念日。安倍晋三首相が、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っています」と発言しました。それ以来、憲法改正の発議、提案に向けて、着々と事態が進行しています。
「憲法の改正」は、「法律の改正」と違って、国会だけでは決まりません。「憲法の改正」は、国会が国民に提案し、国民が承認して初めて実現します。
憲法改正の場面では、国民の一人一人が「政治家」です。「政治家」として正しい決断をするためには、憲法について学ぶ必要があります。とはいえ、みなさんには日々の仕事がありますし、仕事とは縁遠い憲法を学ぶモチベーションが上がらない……という方も多いのではないでしょうか。
憲法を学ぶことは、教養として憲法の知識が身につくだけでなく、「仕事に役立つ思考訓練」にもなります。その理由は、憲法学が、「本質」と「論理」の学問だからです。さらに、憲法の「改正」について考えることは、「本質そのものを追究すること」でもあり、確実に「脳力」が高められます。
その詳細は、本年7月に刊行された拙著『憲法がヤバい 改訂版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中に著しましたが、本稿では、
1、憲法の「本質」
2、憲法の「論理」
3、憲法の「改正」
について、話します。
憲法の三大原則が「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」であることは、学校の授業等で、聞いたことがあると思います。
それでは、憲法の「本質」というのは、いったい何なのでしょうか?
憲法と法律は、まったく違うものです。その違いは、「誰が従うのか?」という点にあります。「憲法」は「国家」が従うもの、「法律」は主に「国民」が従うものです。「国家」は、法律をつくるなどして国民を従わせる「権力」を持っています。しかし、国家の権力は常に乱用される危険があります。
「権力が乱用されないように『国家』を縛る法」、それが「憲法」なのです。
「憲法」が「国家」を縛る目的、すなわち、憲法の「本質」は、「基本的人権(=人間であることによって当然に有している権利)を保障すること」にあります。この「憲法の本質」は、憲法97条にはっきりと書かれています。
【憲法97条】この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである
憲法学を含む法学は、六法全書を丸暗記する学問ではなく、「法の本質を追究し、法の本質を前提に、論理を使って結論を導く」学問です。
例えば、政府が、ある学者の著書を異説として発売禁止にしたとします。このような政府の行為は、憲法上、許されるのでしょうか?
これは実際にあった事件で、大正時代、日本の憲法学者であった美濃部達吉が天皇機関説という学説を発表したところ、政府は、美濃部達吉の著書を異説として発売禁止にしました(この事件は、「天皇機関説事件」と呼ばれています)。
今の憲法の「本質」は、基本的人権を保障することにあり、学問の自由や表現の自由が憲法で保障されています。従って、現憲法の本質を前提に、論理的に考えれば、政府による出版禁止は、当然、違憲・無効という結論になります。
しかし、「天皇機関説事件」の当時は、明治時代につくられた大日本帝国憲法(明治憲法)が運用されていたため、政府による出版禁止も可能でした。
明治憲法にも言論の自由などの規定はあったのですが、今の憲法と違うのは、国民が「権力に支配される者(臣民:しんみん)」とされていたことです。国民の権利や自由も、「天皇が臣民に対して恩恵として与えたもの」とされていました。ですから、国民の権利といっても、「国が定める法律の範囲」で認められるにすぎず、裏を返せば、国が法律をつくりさえすれば、言論や出版の権利を制限することが可能だったのです。
当時は、出版法という法律があり、出版法19条に、「安寧秩序の妨害、風俗の壊乱等の内容の文書図画を禁止する」という規定がありました。
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明治学院大学 経済学部准教授