テクノロジーが自律的に拡張する時代に、いかにビジネスの勝機を捉えるかNTT DATA Innovation Conference 2018レポート(1/2 ページ)

人類は、歴史上何度かの転換点を乗り越えて進化を続けてきた。コンピュータがあらゆる領域で人類を超えるシンギュラリティの到来が叫ばれる今、破壊的に成長を続けるテクノロジーを企業はいかにビジネスに取り込んでいくべきなのか。

» 2018年02月21日 07時01分 公開
[山下竜大ITmedia]

人類の常識を根底から変える4つの転換点

NTTデータ 代表取締役社長 岩本敏男氏

「NTT DATA Innovation Conference 2018 デジタル革命へ――超未来志向を支えるAI、IoT、ブロックチェーン」の主催者講演に、NTTデータ 代表取締役社長の岩本敏男氏が登場。「テクノロジーがもたらす絶え間ない変革と新たなる価値の創出」と題した講演で、テクノロジーが急速に進化する時代に、いかにビジネスに取り組んでいくべきかを紹介した。

 「長い歴史の中で人類は、常識が大きく変わるいくつかの転換点(パラダイムシフト)を乗り越えてきた。ガリレオ・ガリレイ、チャールズ・ダーウィン、ジークムント・フロイトに共通する偉業は、人間が中心と思われていたさまざまな考え方を転換したことだ」(岩本氏)

 NTTデータでは、2014年より「バチカン図書館」のデジタルアーカイブ事業を支援している。このバチカンが栄えていた中世の時代、地球が宇宙の中心であり、他の天体が地球の周りを回っている「天動説」を信じていた。この時代にガリレオは、地球が太陽の周りを回っているという「地動説」を唱えた。これが人類史上の「第1の転換点」であった。

 岩本氏は、「ガリレオは、1633年に宗教裁判にかけられるが、そのとき“それでも地球は回っている(E pur si muove)”という有名な言葉をつぶやいている。天動説から地動説への変革は、当時の常識を大きく覆すパラダイムシフトであった」と語る。

 人類史上の「第2の転換点」は、著書「種の起源」でも有名なダーウィンによる「進化論」である。人類が生物の中心だと考えられていたその当時、人類も他の生物と同様に進化してきたという進化論は、人類史上の第2のパラダイムシフトだった。ただし、人類だけには「理性」があり、これがデカルトの時代から人類のよりどころでもあった。

 デカルトの著書「方法序説」の「我思う、故に我あり」は有名な言葉であるが、これを覆したのがフロイトだった。フロイトは、精神分析により、人間が理性のみで行動するのでなく、「多くの行動は無意識によるものである」ことを証明した。これが人類史上の「第3の転換点」だった。それでも人類は、優れた知能において群を抜く存在だった。

 その後、人工知能(AI)の父と呼ばれるアラン・チューリングの登場により、コンピュータにAIが搭載されるようになった。レイ・カーツワイルは著書で、2045年ごろには飛躍的に発展するAIが、あらゆる領域で人類を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に到達すると述べている。

 「地動説から始まり人類の転換点を振り返ってきたが、シンギュラリティは、まさに人類史上の『第4の転換点』といえるだろう。それでは、この4度目のパラダイムシフトに対し、どのように人類は挑戦し、新しい世界を切り開いていけばよいのだろうか。キーワードとなるのが“Informatized sphere”である」(岩本氏)

Informatized sphere――IT環境が前提となる時代

 Informatized sphereとは、「リアルとデジタルの融合した情報圏」である。岩本氏は、「あらゆるものが情報化し、ネットワークにより全てがつながり、AIやIoTにより、自律的に拡張する世界の到来といっても過言ではない」と話す。

 「人類は、すでに情報圏に組み込まれており、IT環境が前提となっていることを理解しなければならない。こうした世界は、データに基づいている。データという言葉は、ラテン語の“Dare(ダーレ:与える)”が語源といわれている。世の中の事象を、見えるようにするもの、感知できるものをデータと定義すると分かりやすい」(岩本氏)

 データは感知できるので、後から見ても理解することができる。例えば、紀元前の洞窟壁画から、当時の状況を推測することができる。その後、紙が発明され、さまざまな記録が残され、過去のことが分かるようになった。また地層の中の物質も、その時代を表すデータと捉えることができる。ただし、こうしたデータは圧倒的に量が少ない。

 一方、2000年以降、データが爆発的に増加している。あらゆる情報がデジタル化され、ビッグデータとして蓄積されているが、そのデータ量は2020年に44ゼタバイトに達すると予測されている。このデータ量の増加が何をもたらすかが重要になるが、データの内訳をみると、映像や音楽、画像などの「非構造化データ」が圧倒的に増えている。

 データが重要な理由は、「情報の3階層」で考えると分かりやすい。データは、ある種のフィルターを通してインフォメーションへと昇華する。例えばビッグデータは、IoTをフィルターとしてインフォメーションに昇華し、さらにAIをフィルターにしてインテリジェンスへと昇華する。このインテリジェンスにより、判断や行動が可能になる。

 「以前は、数値情報に加え、過去の経験や勘から人間が判断や行動につなげていた。これからは、コンピュータが自律的にデータを収集し、分析して判断・行動することができるようになる。このように、テクノロジーが先行する時代、“情報の価値化”が自律的に進んでしまう時代に、人類はどうあるべきかが大きなテーマだ」(岩本氏)

テクノロジーの負の要素をいかにコントロールするか

 Informatized sphereの事例としては、イングランド銀行(Bank of England)の「FinTech Acceleratorプログラム」に、NTTデータのXBRL(eXtensible Business Reporting Language)ソリューションが採用されている。同プログラムは、銀行業務においてFintechがどのように活用できるかを検討する実証実験(PoC)である。これにより、従来のシステムでは扱えなかった非構造化データを、非常に容易に可視化できる。

 「XBRLを利用することで、財務データや規制報告データ、コーポレートガバナンス報告などのテキストデータを含むさまざまなデータを、新たにシステムを構築することなくデータベースに取り込むことができる。取り込んだXBRLデータは、直感的に操作できるインターフェースを使い、日常的にデータ抽出や分析などができる仕組みを実現できる。ビッグデータを活用することで、業界の景気動向や金融施策に伴う影響など、さまざまな分析が可能になる」(岩本氏)

 XBRLは、金融業界向けのレポートを作成するための言語であり、国際標準技術として、世界60カ国以上で採用されている。日本でも、東京証券取引所への決算短信の報告や金融庁への有価証券報告書などに使われている。ちなみに岩本氏は、2010年3月にXBRLの生みの親といわれているチャールズ・ホフマンとの共著で「IFRS時代のレポーティング戦略 〜XBRLで進化するビジネスのしくみ〜」という書籍を出版している。

 次に「アルファ碁ゼロ」の事例だが、AI搭載の囲碁ソフトであるアルファ碁が、世界チャンピオンに勝利したのは記憶に新しい。当初は、過去の膨大な棋譜を読み込み、それらを教師データとして囲碁の力を高めた。一方、アルファ碁ゼロでは、インプットしたのは「囲碁のルール」のみ。最初は当てずっぽうでの対局だったが、AI同士が自己対局を繰り返すことで徐々に上達していった。

 ここにたどり着くまでに、自己対局は490万回行われたが、その所要期間はわずか3日間だった。アルファ碁ゼロと従来のアルファ碁との対局では、アルファ碁ゼロが100勝0敗という圧倒的な力を見せつけている。このような、AIとAIのコミュニケーションを“敵対的生成ネットワーク”と呼ぶが、自己対局と同じような位置付けで、複数のAIを競わせることで、自律的進化を実現させる方法も登場している。

 「こうした取り組みは素晴らしいものだが、恐ろしい一面もある。AI同士がコミュニケーションして自律すると、人類が知らない世界を勝手に創り出す可能性もある。自律的に拡張するテクノロジーが一般化したとき、人類はテクノロジーに追い付けない不安を感じるかもしれない。テクノロジーの進化を止めてはいけないが、どんなに素晴らしいテクノロジーにも負の要素があり、いかにコントロールするかが重要だ」(岩本氏)

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