テクノロジーにより、合理化、効率化が進み、人々の暮らしは快適になったが、最後の作業はいまだアナログである。アナログとデジタルのつなぎ役がコミュニケーションロボットなのかもしれない。
「NTT DATA Innovation Conference 2018 デジタル革命へ――超未来志向を支えるAI、IoT、ブロックチェーン」の基調講演に、ロボットクリエーターでロボ・ガレージの代表取締役社長である高橋智隆氏が登場。「ロボット時代の創造」をテーマに講演した。現在、高橋氏は、東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授、大阪電気通信大学 客員教授、グローブライド 社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室 顧問も兼務している。
「現在、ロボットクリエーターという肩書で活動しているが、この肩書は自分で勝手に考えたもの。学術的なロボットの研究開発ではなく、暮らしの中で使うロボットを作りたいという思いからこの肩書を考えた。大学時代は、同級生の女子に笑われたが、言い続けて次第に市民権を得てきた」(高橋氏)
2016年に発売されたタカラトミーの「人生ゲーム」に、ロボットクリエーターという仕事が加えられている。高橋氏は、「早速、その人生ゲームで遊んでみると、ロボットクリエーターは上から3番目に収入のいい職業だった。ちなみに1番は人間国宝で、2番目はノーベル賞科学者であり、3番目は悪くないと思った」と笑う。
ロボットクリエーターとして何をしているかといえば、ロボットのことを考え、設計、デザインをし、試作をして、プログラミングをすることである。例えば、トヨタ自動車および電通とロボット宇宙飛行士「KIROBO(キロボ)」を共同開発し、宇宙に行ったロボット1番乗りを目指した。
また、単3電池2本でグランドキャニオンを登る企画のために「エボルタくん」を開発した。ロボットを屋外に連れ出すのは大変で、砂ぼこりや強風、天候の変化などへの対応に苦労したが6時間46分で頂上に到達できた。頂上に着いてもまだ乾電池のパワーが残っていたので、もっとチャレンジできると考えた。
そこで次に、同じ単3電池2本で「ル・マン24時間耐久」というギネス記録に挑戦した。この企画ではサーキットを貸し切り、約70人のスタッフで準備をした。前を走る車を三輪車に乗ったエボルタくんがセンサーで見つけて追いかけることでサーキットを周回し、無事に24時間走り切った。
さらに乾電池の研究開発が進み、性能が1.3倍以上に向上したことから、ノルウェーで1000メートルのフィヨルドの登頂に挑戦することになった。電池の性能向上が1.3倍なのに、なぜ上る高さがグランドキャニオンの2倍なのかという疑問もあったが新たに開発したエボルタNEOくんは、約11時間かけて無事登頂に成功した。
ロボットクリエーターを目指すきっかけは子供の頃に読んだ「鉄腕アトム」で、京都大学工学部に入学しモノづくりの世界、ロボットの分野に進むことを決めた。
京都大学に入学したものの、ロボット専門の授業があるわけではない。そこで、まずは独学でロボットを作り始める。高橋氏は、「ガンダムのプラモデルを購入し、内部にメカを仕込み、リモコンで操縦した。うまくできたので、京都大学内の特許相談室に持っていくと、面白いから特許出願をしようということになった」と話す。
次のロボットを作るために、開発費、材料費が必要なことから、学生向けのベンチャーコンテストや技術コンテストなどに応募し、ロボットを持ち込んだところ、全ての大会で優勝。優勝賞金で、ロボットを作り続けた。卒業間際には、大学内にインキュベーション施設ができたので、その第1号として2003年にロボ・ガレージを設立した。
現在までに、50種類近いロボットを作った高橋氏。例えば、2003年に開催された鉄腕アトムの誕生日を祝うイベントにロボットを出展した。高橋氏は、「鉄腕アトムのように、かわいいロボットにしたいと思い、配線や歯車など、メカ的な部分が見えないように、白い伸縮性のある素材で隠した」と話す。
また、2050年に人型ロボットで、サッカーワールドカップのチャンピオンに勝つことを目的とした世界最大の国際的ロボット競技大会である「ロボカップ」にも出場。2004年〜2008年の5年間、連続で優勝している。ロボカップには、子どもたちが参加できる「ロボカップジュニア」もあり、教育の一環として役立っている。
他に教育の一環としては、ヒューマンアカデミーと共同でブロックを使ってロボットを作るロボット教室を主催している。現在、日本全国1100教室以上を開講しており、1万7000人を超える生徒が受講している。また、中国をはじめとする東南アジアや中東など、グローバルにもロボット教室を展開し始めている。
ロボット教室では、完成したロボットで、実験をしたり、競争をしたりして、終わるとバラバラにして、次の月にまた新しいロボットを作る。作成するのは、人型、恐竜、昆虫などさまざま。それら50種類を超えるロボットを考案してきた。
高橋氏のロボットが、広く一般に知れわたったのが、デアゴスティーニのパートワーク(分冊百科)シリーズの1つである「週刊 ロビ」の発売である。高橋氏は、「2013年より、約15万台のロビが販売された。人型ロボットとしては、最も売れた商品である。驚いたのは、購入者が想定していた機械大好き男子だけでなく、約4割が女性だったことだ」と話す。
パートワークシリーズは、回を追うごとに離脱する割合が高く、約1割が最終巻まで購入すれば元が取れるというビジネスモデルである。高橋氏は、「ロビに関しては、ドライバー1本で組み立てられる容易さもあり、約5割が最終巻まで購入し、ロビを完成させている。ロビには、ほぼ実用性がないのに、なぜこれほど売れたのか。そこに未来のロボットと人間との付き合い方がある」と話す。
例えば話題のAIスピーカーは、高機能だが非常に安価に購入できる。その理由は、購入後に音楽を聴いたり、買い物をしたり、いろいろな有料サービスを使う中で本体の代金が回収できる仕組みになっているからである。
ロボットも単体を原価いくらで作り、何体売ればもうけが出ると考えるのではなく、ロボットを含むさまざまなサービスとしてビジネスを考えることが必要になる。この分野は、日本が最も不得意とする分野でもあるが取り組まなくてならない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授