製薬企業含む医療プロバイダは「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」の二律背反をいかにして克服すべきだろうか。
※本稿は、ROLAND BERGER LIFE SCIENCE STUDY「デジタル技術が拓く未病・予防医療の未来」のサマリー版である。
日本を含む多くの先進国においては、政府支出に占める医療費の割合が年々増加傾向にあり、医療費抑制ニーズは高まる一方である。各国の平均寿命が依然として延伸傾向にあることを考えると、医療業界全体での医療費削減プレッシャーは今後も継続するであろう。
斯様な状況下で、Payer(政府や保険会社などの医療保険提供者)が中心となって、これまで聖域であった医療の世界にも経済合理性のメスが入れられようとしている。具体的には、治療コストとその効果を比較する医療技術評価(HTA)の導入が各国で進んでおり、日本でも薬価算定時に奏効率を参照する制度が試行的に導入されるなど、薬価制度の見直しが再三検討されている。
一方で、創薬〜新薬上市の成功確率は3万分の1といわれるほど難易度が高まってきており、また、核酸医薬品や抗体医薬品、再生医療等、新規モダリティの開発に必要な薬剤開発投資金額は近年急激に増加傾向にある。
では今後、製薬企業含む医療プロバイダは「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」の二律背反をいかにして克服すべきだろうか。一つの方向性が「予防領域への展開」である。
従来の「臨床アウトカム(有効率、奏効率など)」向上をターゲットとした治療のみならず、「経済アウトカム(費用対効果)」と「患者アウトカム(QOL、ADL、治療満足度など)」を包含する「ヘルスアウトカム」全体の向上に貢献することが求められるこれからの医療において、「予防」アプローチが重要性を増してくる。
もっとも、ペイシェントジャーニーにおける「予防」アプローチ自体は以前から存在した。例えば、慢性疾患の代表格である高脂血症の治療薬であるスタチン系の薬剤は、高脂血症がもたらす二次的な疾患である心筋梗塞や脳血管障害などの発症リスクを低下させることから、世界で最も服用者の多い医薬品の一つである。一方で、これからの予防医療が従来のそれと大きく異なるのは、その対象が「慢性疾患患者」だけでなく、「健康な個人」にまで拡大されている点である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授