これまでビジネスで重要視されていたのは、数字だ。しかしベクトルが定まっていないこれからの時代、自分の欲望を、誰もが望む未来を「言葉」にできた人が総取りできる。
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ビジネスにおいて、今、数字以上に言葉が求められている。
これまでの時代は、ビジネスで重要視されていたのは、数字だ。
「モノを安くたくさんつくれば、売れる」「よりよいサービスを提供すれば、もうかる」「人を増やせば、売り上げもあがる」――。昭和、平成は目標としての「数字」さえ示せば、それが指針となり、みんなが前に進むことができたのだ。
「世界の枠組み」「ビジネスの仕組み」がかっちり決まっていたため、目指すべき数字だけ示せば事足りた。「今年は1億円稼ぎましょう」「来年は2億円稼ぎましょう」それでよかった。成長や進化のベクトルは定まっていて、あとはその「進むべき距離」だけ考えていればよかったわけだ。
しかし今はそのベクトルが、定まっていない。時代が変化するスピードは加速している。社会やビジネスのルールもあっという間にアップデートされてしまう。ぼくたち一人一人が、そして企業だって、どちらに行くのが正解なのか分からない。そういう時代だ。だからこそ、どちらに進むべきかを決めて、断言できる人間が強い。
テクノロジーも同じだ。
今は新しいテクノロジーがもてはやされる時代だが、そのテクノロジーの方向性を示すのも「言葉」である。例えば「ポケットに入るような小さなコンピュータがほしい」(iPhone)と誰かが言わなければ、それは永遠に生まれない。「音楽を持ち運びたい」(ウォークマン)、「人間の目と同じ鮮やかさで世界を捉えられるカメラがほしい」(8Kビデオカメラ)、「世界中の外国語を話せるようになる機械がほしい」(ポケトーク)……あらゆる革新的なプロダクトは、革新的な欲望を表現する一言、簡単な言葉から生まれている。
最初に想像し、言葉にする。その新しい言葉、新しい概念、新しい現象がテクノロジーを引っ張り、言葉とテクノロジーの相互作用で現実が変わっていく。言葉とは「テクノロジーが新しい現実を生み出すためのガイドライン」ともいえるだろう。
この世にないモノは無限にある。日々、新しいモノはどんどん生まれてくる。環境もガラガラと音を立てて変わり続ける。それはピンチではなくチャンスだ。自分の欲望を、誰もが望む未来を、自分なりに「言葉」にできた人が「総取り」できる時代だ。
広告の仕事の最大の特徴は、あらゆることを言葉にする必要があるということだ。広告はアートではない。クライアントがいて、彼らが納得しない限りはどんな面白いアイデアも世の中に出ることはない。だから、あらゆる意思決定がクライアントに説明可能でなくてはいけない。デザインするときも「なんとなくカッコいい」「なんとなく黄色がいい」ということは許されない。「なぜカッコいいのか?」「なぜ黄色なのか?」を言葉にしなければ商売にならないのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授